表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
86/317

86話

 その意味がわからず、ジェイドはフリーズした。中はキッチン。つまり、製造のほうになる。


「……え?」


「お店の看板商品だから、しっかりと頼むよ」


 と、怯むジェイドの背中をワンディは押す。ジェイドはキッチン担当へ。


 しかし、もしかしてなにか勘違いをしているのでは、と悟り、ジェイドは抵抗してみる。本当は行きたいけど。


「いや、私はまだ試食用しか作らせてもらったことは——」


 ないことはワンディももちろん知っていた。だが、それはそれ、ということで今日から変更。店長権限。


「じゃあ、今日から商品のものも。それ以外にもマカロンや、ガナッシュ、プラリネなども。もちろん無理にじゃない。本気でショコラティエになりたい人に、私は修行させてあげるだけ」


 どっちでもいいよ、と判断をジェイドに委ねる。

 

「……いいんですか?」


 喜んでいいのかなんなのか、複雑な心境を表現するように、ジェイドは無意識に舌で犬歯を舐めた。味はしないが、少し落ち着く。わけもなく、気後れする。


 それを確認し、ワンディは優しくジェイドの肩を叩いた。

 

「その責任を負うのが私。ひと通りの作り方はわかる? わからなければ聞いてください」


 エディットの言っていた『甘くはない』の意味が、なんとなくわかる気がした。アルバイトだから、というのは通じない。製菓学校を出ていない、未成年だから、も通用しない。その責任感がずっしりとジェイドにのしかかる。


「……はい」


 やるしかないし、ずっとやりたいと思っていた。が、こんなにあっさりと急にくるとは思っていなかったので、正直拍子抜けしたところもある。いいの? というのが感想。


「私は接客をメインでやるので、よろしくね。あまりいないかもしれないけど、そのへんはハリオットさん達に聞いてもらって」


 と、急遽ワンディはジェイドとポジションを入れ替える。


 それを遠くから見ていたエディットは、喜んでいいのか、店長と一緒ということに絶望していいのかわからず、悩ましく体をくねらせた。


 最後にもう一度だけ、ジェイドは確認する。


「……あの、本当にいいんでしょうか。自分はまだ、見様見真似で練習させてもらっているだけですし、味に自信はありますけど、もしかしたらなにか失敗して——」


「じゃあ、失敗しないように頑張って。これも修行。もし失敗しても、この店の評判が落ちるだけ。気にしない気にしない」


 リラックスを促すが、評判と聞くと逆によりジェイドは緊張する。ないだろうが、自分が世界に誇る老舗ショコラトリーの命運を握るかもしれない。


「だけ、って……」


 まだどうしても、強気にはいけない。自分がこんなに及び腰なことに初めて気付かされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ