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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
73/318

73話

 いいところに気がついた、とでも言わんばかりにサロメは口笛を吹く。


「そうね。じゃあなんでこんなものが付けられたかわかる?」


 現在では、むしろ一八四八年以降のピアノは、取り外されているものも多く、見かけることがない。その理由。ショパンの頃と、現在のピアノの役割の違い。


 その当時の絵画を見たことがあるジェイドは、今との差はなにか思案するが、一〇秒ほどで答えを出す。


「……音を大きくする必要がなかった?」


 思い返せば、コンサートホールのようなところで演奏している絵は、見たことない、かもしれない。どちらかというと、小さめの部屋で少人数というイメージが湧いてきた。


 大きく頷いたサロメは、より詳しく説明する。


「正解。コンクールとかそういうもののために作られたのではなく、サロンなどで弾くためだから、大きい音はいらなかった。さらにメリットもあって、鹿の皮を使うことで、弱音がより聴こえやすくなるから、そこを表現しやすくなる」


「なるほど。たしかにタッチも軽い。若干浅い気もするね」


 ジェイドがほんの少し、だが確実に感じたこととして、キーの浅さ。現代では鍵盤の沈む深さは一〇ミリ、というのがほぼ世界的な基準となっているが、このピアノは一ミリ浅く、九ミリ。たったそれだけの違いだが、繊細なタッチを求めるピアノでは、大きな違いとなる。


「調律もそうだけど、ピアノは〇・〇一ミリ単位で違いが出てしまうほどに、奥が深い。一ミリ違うと別物よ」


 ひとつ鍵盤を押しながら、サロメは無言で眉を寄せる。若干怒っている。


 それと反対に、フォルテピアノというものを、見るのも聴くのも初めてというジェイドにとって、このピアノのどこがダメなのか、どうすれば正解なのかが当然わからない。


「それで、調律についてなのですが、どういう——」


「いい。だいたいわかった。前に調律した人は、フォルテピアノは初めてだった。違う?」


 しかし、そのジェイドの質問を、やる気と同時に怒りが湧いてきたサロメが遮る。このままでは、この家にあるもの全て食べそうなほどにストレスが溜まる。


 そこまで聞くことに専念していたディディエが、戸惑いながら口を開く。


「え、えぇ。そう言っていましたが、基本的な部分は同じだからと、ひと通り整音や整調、調律し終えたのですが……」


「じゃあなぜ?」


 そもそもなにが違うのかわからない。ジェイドはそろそろついていけなくなる。

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