表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
マリー・アントワネット
7/310

7話

 白を基調とした石造りの建物の一階。壁にはカカオの花や、その生産者と思しき老年の男性の写真がかけられている店内は、ガラスのショーケースの中に、色とりどりのボンボンショコラが並んでおり、お客さんへの試食も行なっている。そして箱や袋に詰められ、丁寧に包装されたものを販売する。いたって普通。ただ、なにを思ったかパリではあまりない、カフェも併設するスタイル。


 たしかどこかに古書店と併設するカフェもあったが、それを真似たのだろうか。もしさらに真似るとしたら、そこはピアノも置いてあるとネットで話題になっていた。ショコラトリーにピアノを置かれてもねぇ、とジェイドは辟易する。


「私はワクワクしますけどね。いち早くトレンドを取り入れていますし、次に何がくるのか楽しみです」


「いいねー、夢があって。あたしは就職難を乗り越えることだけしか今は考えらんない」


 エディットはジェイドと違い、パティシエやショコラティエを目指してはいない。単純にショコラが好きだから応募したところ、受かってしまった。製造よりも接客のほうが向いているとのことで、ジェイドと被ることは多い。よきお姉さんのような位置は目指している。


「まぁ、いつかは作る方やりたいですけどね。でも製菓学校も出てないし。閉店後に少し練習させてもらってますけど、テンパリングですら奥が深いっていうか、終わりが見えないんですよね」


 いや、贅沢は言えない。こうやって関わらせていただいているだけで、ここの店長には感謝しきれない。普通なら、まだ関わることすらできない年齢と腕なのだ。それに、接客は接客で見えることもある。ショコラは手段で、目的は買ったお客様、受け取った人、それらまわりの人々が幸せになるように。もし、最初から作る方だったら、買ってくださった方の笑顔を知ることはできたのだろうか。


 ココアバターの安定した分子の再結晶化による、滑らかな口溶けと適度な硬さ。結晶化しすぎると粘りすぎる艶のないショコラとなり、結晶化が不足すれば固まらない。そのためのテンパリング。そのひとつ、水冷法。湯煎でショコラを溶かし、温度を下げ、また少し温度を上げる。


 ジェイドはもう、重さだけで温度までわかる。人間の口の中で溶ける『V型』三二度。何度も店で練習させてもらった。テンパリングマシーンは大量に作れるのだが、少量作るなら結局手作業が一番効率がいい。その練習は欠かさない。


「個人的な練習は閉店後にさせてもらってるとして、学校の勉強とかはいいの?」


 増えてきた客数の合間を縫って、エディットはジェイドに話しかける。喋るのが好き。だからこそ、あんまり忙しくないほうがいい。


「よくないですよ。でも、ショコラティエになれるなら、学校は辞めたっていいと思ってます。結局は学校は就職のために行っているところありますから。ま、長いこと雇ってもらえることが確定しているならですけど」


 資格はあくまで、就職に、独立に有利だから取ろうとしているだけ。もしチャンスがあるなら、全てを捨ててでも賭けてみたい。失敗したところで死にはしない。失敗しても、許されるならここで働き続けたい。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ