66話
不敵な笑みを崩さない女性は、応対用のガラスのローテーブルにショコラを置き、対面のソファーに座る。
「これは私の話を聞いてもらうのが条件。聞かないのなら、私が今、この場で食べる」
どうする? と、睡眠を貪る少女に言葉を投げかけた。
若干惜しいが、妙なことに巻き込まれるよりは、と冷静にサロメは諦めることにする。七区はそんなに遠くない。
「……別にあとで買いに行くからいいわ。はい、解散。店長、エスプレッソ淹れてー」
「ちなみに」
まるで一度断られることは計算済みだったとでも言うように、用意していた次の手を、さらっと女性は披露する。
不機嫌を詰め込んだような声で、サロメは「あん?」と荒ぶった。
「食べるだけで美味しいんだけど、エスプレッソ用にも改良したダークショコラでもある。三つデミタスカップに入れ、エスプレッソを抽出。すると——」
「……すると?」
女性の新しいショコラの使い方に、寝ようとしていたサロメもゆっくり身を起こし、窺う。
だが、もったいつけるように、女性はそこで話を打ち切った。
「ここから先は、話を聞いてもらってから。そしたら『すると——』のあとがわかるよ」
包装を外し、箱を開ける。ミルクとダークが一〇個ずつ。女性は「どうする?」と口角を上げた。
身を正し、ソファーの座り直したサロメは、だるさで頭を抱えながらも、会話を続ける。
「……で、話って? あー待って、あんた誰?」
顔を上げて薄目で相手の全体像を確認する。見たことはない。が、年齢は同じくらいか。まさか、差し入れに来たファンというわけではなさそうだ。
やっと対等な関係になれたことを、女性は喜ぶ。一応お土産も用意しておいてよかった、と胸を撫で下ろす。
「ジェイド・カスターニュ。キミと同じモンフェルナ学園の生徒だ」
はじめまして、の握手を求める。
しかし、警戒を怠らないサロメは、その手を凝視。したがとりあえずは握手。
「ふーん……ベルギー人か。てことはルカルトワイネ? いいなー、本場じゃん」
欠伸をひとつし、ソファーに深くかけ直す。柔らかめのクッション。もう一度眠くなる。
「え? ベルギー?」
ロジェが二人の顔を交互に見やる。ひとりは眠そうな半目、ひとりは笑顔を崩さない。崩れていないだけで、なにか思うところはあるのかもしれない。
悩めるロジェに、サロメが答えを提示する。
「ワロン語。オランダ語のほうが得意そうね」
ボーッと天井を見ながら、今日の夕飯はなににしようか考える。ピザでも買って帰るか。
ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!




