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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
65/318

65話

「サロメちゃん、サロメちゃん」


 パリ三区にあるピアノ工房『アトリエ・ルピアノ』。店内には様々なグランドやアップライトピアノが整列され、自由に試弾できるようになっている。店長のロジェ・アルトーは、店の奥にある、パーテーションで仕切られた、応対用のソファーで横になる少女に声をかけた。


 目を瞑りダラダラとしていた、学校の制服を着たままの、そのサロメと呼ばれた少女は、ゆっくりと瞼を開けると、呼びかけてきたロジェを睨む。


「は? なに? なんです? あたしじゃなきゃダメ? あいつは? ランちゃんは? 暇でしょ? どうせ? なにやってんの?」


 およそ店長に対するアルバイトの態度ではないが、言葉の銃弾を何発も浴びせる。一発一発は軽いが、いくらでも乱射できる。


 身を削られながらも、その先をロジェは続ける。声をかけるだけで、なんでこんなに消耗するのか。

 

「うぅ……まだなにも言ってないのに……実はね、お客さんが——」


「パス。あたしは今の時間は休憩。いないってことにしといて……いや、待って」


 ロジェが喋っているところを遮って拒否したサロメだが、なにかに気づき、ストップをかける。良いか悪いかで言えば良いもの。目を瞑り、耳に集中する。


「はい、はい……はい……七区、『WXY』、ミルク&ダークショコラ。違う?」


「?」


 いきなりショコラと言われても、ロジェは困る。買ってこい、ということ? え、そこまでやる?


 しかし、パーテーションの向こうからヒョイっと、顔を覗かせる人物。女性。サロメと目が合い、ニヤリと笑う。


「正解。やぁ、はじめましてサロメさん」


 そして、先ほどサロメが答えた、職場で販売しているショコラを右手で持って見せる。青藍の紙でラッピングされた、二〇粒入りの商品。いつも売っているものだ。


 棘のついたサロメの視線、その次の獲物は、この女性に変更される。


「誰? それだけ置いてさっさと帰って。今、休憩中なの」


 なにやら面倒なことに巻き込まれそうになる気配を感じ、サロメは女性に帰宅を促す。ただ、手に持ったものは置いていってほしい。糖分はいつだって正義だ。


 顔だけでなく、全身を曝け出し、女性は一歩前に出る。


「話には聞いていたけど、たしかにこれは一筋縄ではいかなそうだ」


 やれやれ、とわざと聞こえるように呆れつつ、視線を合わせる。


「用があるなら、そこの人に伝えておいて。気が向いたら聞いてあげる。今はあんたに興味はない」


 サロメは先に視線を外し、再度ソファーで寝に入る。もう少ししたら調律で出かける。それまでは好きに過ごしたい。

ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!

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