63話
しかしオードは矛盾を突いていく。
「他の誰か、ってアンタは友達いないじゃん」
一瞬、間を置き、ふぅ、と息を吐いたジェイドがオードの肩を叩く。
「キミがいるじゃないか」
「じゃあ送りなさいよ」
温度の感じられない、尖ったひと言をオードは突き刺す。
対するジェイドは、今度は数秒間を置き、少し考えると、
「……でね」
と、場を改めて整理しだした。少し呼吸を深く。ゆっくり。
「本当はオードに返……送りたいんだけど、それを必死で我慢して、他の人に送るのさ。その相手を今探してる」
自分でもおかしい気がしてきたが、ここまできたら「ええい、ままよ!」という気持ちで押し通す。そうしたら、勢いで抜けられるかもしれない。
是が非でも娘を、友達に外に連れていってもらいたいリュドミラは、よくわからないがとりあえずジェイドに同調する。
「いい話ね。それがいいわ」
ね? と、オードにも同意を求める。はて? なんの話だっけ? と、話の中身はよくわかっていない。
「いや、よくないって。自分の娘に利益を求めなさいよ」
鋭く話を修正するオードだが、ジェイドに引っかかる部分がひとつ。
「それに、他の人達がショコラで勝負しようってのに、あんたはカルトナージュまで使って箱を装飾したら、卑怯とか反則とか思わないわけ?」
繊細なショコラの世界。詳しいことはオードにはわからないが、日々ショコラティエ達は、研鑽を積んで、より美味しいものを、より新しい味を、食感を求めているはず。世界一を目指しているというのは前に聞いたことがあるが、なんかズレている気がする。
ふふふ、とまたもジェイドは鼻で笑う。
「面白いことを言うね。戦いなんて勝てればいい。卑怯、反則という言葉は、準備不足の言い訳だ。例えばもしワールドチョコレートマスターズ三日目、その場に立って祝福を受けることができるなら、私は——」
と言いかけたところで、ジェイドは言葉を詰まらせる。
私は
その時
どうしようというのだろう?
「……ジェイド?」
突然止まったジェイドを、心配そうな目でリュドミラが見つめる。なにごと? と、オードに意見を無言で求める。
しん、と場が静まり返ったことで、話の停滞を感じたオードは、
「……まぁ、あんたがいいならいいんじゃない? 巻き込まないで。じゃ」
と、ひとり自室に入っていく。なにがなにやら。
言葉を失い、呆然としたまま立ち尽くすジェイド。私がなぜ世界一のショコラティエールになりたいのか、なぜルレ・デセールに入りたいのか。
それだけはきっと、私が墓までひっそりと持っていくことなのだ。
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