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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
チャールズ・チャップリン
62/317

62話

そんな気持ちを察したジェイドは、即座にフォローを入れる。


「見た目はね。クーベルチュールを砕いて粘土にしただけなので、味はよくない。やはり食べるなら手間暇かけたWXYのショコラを——」


「宣伝するな。てか、美味しく作れなかった言い訳じゃなくて?」


 母をうまいこと操ろうとしていたジェイドを、オードが阻止する。気を抜くとこいつは、何をしでかすかわからない。うかうかしていられない。


 抑止されたジェイドは鼻で笑う。


「まぁ、たしかにトッププロなら、どんな具材でも素晴らしいものが作れるだろう。だが私は半人前だ。任せられたが、なにもできない」


 ジェイドは自分の立ち位置がどこなのか、しっかりと把握している。店では一番下だし、練習させてもらえるだけでもありがたい。もし今、ワールドチョコレートマスターズの予選に出たところで、審査員に「何しに来たの?」と追い返されるだろう。

 

「……やけに素直ね。調子狂うわ」


 自信満々に自信がないことを宣言するジェイドを、オードは案外信用できる。実力が伴っていないのに、自信があるヤツよりかは幾分かマシ。


「だから力を貸してほしい。オードがいれば、もう少し上にいけるはず」


「それは嫌」


 だからと言って、ジェイドの要請には応じるつもりはオードにはない。以前のは気まぐれ。


「やれやれ。娘さんは強情だ。まいったね」


 言葉では降参しているようだが、ジェイドは全く諦めていない。むしろ、余計に火がついた。


 母も少し投げやり気味に、


「誰に似たのかねぇ」


 と首を傾げるが、きっと大丈夫、とジェイドにアイコンタクトする。もっと押したほうがいいわ、とアイコンタクトの予定が、身振り手振りで伝達。


 その様子をオードは黙って見ていたが、そもそも断る理由がわかっていないんじゃないか、という不満を、母親とジェスチャーで会話するジェイドに投げかけた。


「あたしにメリットがないのよ。アンタは一応、仕事場でモデラージュ? とかいうのを任されたわけだけど、あたしは? なにも。あんたの店から依頼って話、どうなってんのよ。恩返しされてないんだけど?」


 頬杖をついて、一気に不満を爆発させるオードを、ジェイドは軽く嗜める。


「甘い、甘いね。インドのグラブジャムンくらい考えが甘いよ、オード」


「はぁ?」


 なにやら専門的な知識で返されてしまったこともあり、全くジェイドの言いたいことが伝わってこないオードは、ため息混じりの疑問を声にする。


 そんなことは一切気にせず、ジェイドはまた彼女らしく、意外なところから考えを引っ張り出す。


「オードはミミ・レダー監督の『ペイ・フォワード』という映画を観たことがないのかい? 恩はね、誰かに返すのではなく、他の誰かに送るものなんだ」


 うんうん、と、ひとり頷く。いいことを言った自分に酔いしれる。そうすれば世界は良くなる、って映画で言ってたし。

ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!

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