53話
「じゃ、申し訳ないんだけど、こいつと話があるから、みんなと待っててくれるかな? この後、試食をするから」
厨房で待っていてほしいとロシュディから言われ、ジェイドは了承する。そして謝罪。
「はい、わかりました。あの……勝手にすみませんでした」
自分ではどうすることもできなかったとは言え、オーナーの部屋に入ったこと。そして先に披露してしまったことなど、言っておかなければならない。
しかしロシュディは全く気にしていない様子。全部の黒幕はわかっている。
「この部屋のこと? どうせこいつがそそのかしたんだろうから、いいよいいよ。見られて困るものもないし。作品もこのままで。じゃ、よろしくね」
と、軽く受け流した。
「はい、ありがとうございます。失礼します」
ゆっくりとドアを閉め、ジェイドは部屋から離れて行く。カルトナージュとショコラは置いたままでいいというのが気になったが、まぁ判断は彼らに任せるしかない。良い方に転がればいいな、と楽観的に考えることにした。
そして、部屋内では、男二人が笑みを浮かべながら睨み合う。怒っているわけではないが、ピリついた空気で一触即発という雰囲気だ。
先に喋るのはロシュディ。まずは現状について。
「で、なーにやってんのかな? ウチのショコラティエール捕まえて」
変なプレッシャー与えないでくれる? と、ジェイドを気遣いながら牽制する。この男は信用できるかできないかで言ったら、できなさすぎる。
男性も、それならばと反撃に応じた。
「そっちこそ、遅れてきて謝ってもらっていいかな。寒い中待ってたんだから」
全ての原因はそこだ、と一歩も引かない。一〇月も下旬となれば、朝晩の寒さは身に染みる。
「そりゃ悪かった。じゃ、おあいこってことで。そっちも忙しいんだろ?」
「忙しいよ。全く、呼び出しといて遅れるなんて……」
ロシュディは謝罪し場を収めようとするが、男性はまだまだ愚痴なら喋れる。なんだったら、数年前から掘り起こして、今ここで決着つけようか、とすら思っている。
「だから謝っただろ」
やれやれ、とロシュディは一歩引く。こんなことで時間を使ってもしょうがない。自分も言ってやりたいことはあるが、とりあえず閉まっておく。もう一回同じやりとりになったらぶっ放そう。
「でも、そのおかげで面白いものが見つかった、かな。そこは感謝。なかなかいないよ、こんなこと考える子。考えても、やろうとは思わないし、行動力がすごい」
まさか希少なマンティニークカカオを探し当てるとは。これにはさすがに男性も脱帽した。全てフランスでやってやろうという、強固な意志。あそこまでやられたら、失敗でも怒るなんてできない。中途半端に成功するより、よっぽど可能性がある。
続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。




