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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
マリー・アントワネット
48/318

48話

 翌日夜。


 閉店後にオーナーであるロシュディ・チェカルディが、セギュール通り店で新作の試作品を見るという情報があり、ジェイドは学校を終えてから店に向かう。時刻は一八時三〇分。少し早いが、店で待つ。混んでいたら、そのままシフトに入ってもいい。気持ちがはやる。どう転ぶかわからないが、一刻も早く楽になりたい。


 「ん?」


 店に着くと、ひとりの老年の男性が外で待っている。おそらく七〇手前くらいか。なかなか絵になる渋さを兼ね備えている。


 待ち合わせかな、と予想したジェイドだったが、とりあえず横目に通り過ぎて店へ。そして、最近作っておいたショコラは、とりあえず形にはなっていることを確認。ロシュディが来るまで待つ。


「本当なら、もう少し時間がほしかったけど、まぁそれも改善点てことで」


 そして、時刻は一九時。もうすぐ閉店だ。ソワソワしていると、なんとなく、先ほどの男性が気になる。待ち合わせはできたのだろうか。確認すると、まだいるようだ。しかたない。店の制服に着替えて外へ。


「もうすぐ閉店ですよ。どうされました?」


 とりあえず声をかけてみる。もしかしたら、店を間違えているのかもしれない。七区はショコラトリーがたくさんある、激戦区だ。ないこともないだろう。


 寒さでやつれた表情で、その男性は返した。


「あぁ、店の前で待ち合わせなんだけどね。どうやら遅れてるみたいで、ずっと待たされてるんだよ。全く、M.O.Fというものは忙しいもんだね」


 M.O.F。それを獲得している人物はWXYにはひとりしかいない。ジェイドはハッとした。


「てことは、オーナーのお知り合いの方ですか?」


 そう言われ、男性は少し驚いたような顔をした。そしてすぐにニコッと笑う。


「うん、そうだよ。今日は新作の試食だと聞いてね。それに呼ばれたから来たのに、肝心の本人がいないもんだから、入っていいものかわからなくて」


 新作のことも知っている。ということは関係者。ならば問題はないだろう。ジェイドははとりあえず中に入ってもらい、カフェスペースで待ってもらうことに。しかし、オーナーが呼ぶほどということは、かなりの有名な人なのだろうか。だいたいのショコラの有名人はわかっているつもりだったが、もしかしたらワールドチョコレートマスターズの審査員などだろうか。だとしたら、さすがに全員は把握できていない。


「どうぞどうぞ、店内でお待ちください」


 と、中に促す。偉い人は丁寧に。今後のためにも。


「ありがとう。じゃ失礼して」


 男性は、ジェイドの開けたドアにそのまま入っていった。


 ホールで品を直しながら、エディットが、振り向きながら男性に声をかける。


「こんばん——」


 しかし、目を見開き、そこで止まる。


 その反応を見て、男性はカフェスペースで待つことを止める。


「しかし、連絡もよこさないヤツだからね。罰として、ロシュディの部屋に入らせてもらっちゃおう」


 と、勝手に決め、オーナー室で待つと言い出す。それがいい、と首肯し足早に向かい出した。


「え、ちょ、ちょっと。それは……どうなんでしょう。鍵はかかっていないらしいですけど、勝手には……」


 さすがのジェイドも、友人とは言えど、まずいんじゃないかと思い引き止める。そもそも自分にはそれを決める権限もない。会ったこともないのだ。初対面での印象が最悪になりかねない。


 だが、男性は聞く耳を持たず、ジェイドの制止を振り切って前へ前へ。


「大丈夫大丈夫。なにかあったら私がなんとかするから」


 と、スタッフルームの方へ歩いて行ってしまった。


「ま、待ってくださいって!」


 と、追いかけようとしたが、ジェイドは手首を持たれ、止められる。エディットだ。こんな時に世間話なんかしてる場合じゃないのに。しかし。


「ちょっと! なんであの人がここにいるの!」


 と、決死の形相でエディットはジェイドを引き止める。いつも飄々とした彼女にしては珍しい、慌てた姿。


 それを聞き、あの人? やっぱり有名な人だったのか、とジェイドは確信した。となると、フランスでは有名で、ベルギーではそれほど、ということ? やはり顔に見覚えはない。


「知りませんけど、オーナーのお友達だそうです。先に行っちゃったんで、案内してきます」


「あ」


 と、呆然とするエディットを振り切り、ジェイドは男性を追いかけた。まだ完全に信用したわけではない、もしかしたら他店のスパイに来たのかも。というか、誰なのかエディットさんに聞けばよかった。そんなことを考えながらスタッフルームに入ると、オーナー室の前で男性は待っていた。ノックもせずにそのまま男性は入る。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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