40話
自分を無視して話が進んでいることに納得のいかないオードは、ジェイドの手を軽く払いのける。
「そっちの店からしか、あたしは受けないって言ったけど?」
「大丈夫。店からの依頼だから。話はつけておく」
大嘘。そんなこと自分では決められない。ジェイドはここまできたら勢いで乗り越えてみせる。問題が発生したら、その時はその時。謝りすぎるくらいに謝ればなんとかなるだろう。
渋い顔をしたオードも、嘘だというのはわかっている。が、断っても毎日来ると言っているヤツだ。もうこうなったら、さっさと作って終わりにした方が早い。今日一番のため息をつく。
「もういい。さっさと作るわ。どんなの? ブック型? シューボックス型? てか、なにを入れるヤツ?」
これで正式に依頼を引き受けたことにする。ジェイドは内心でニヤリと笑った。
「いや、ちょっと違う。ほら、あれだよ、あれ——」
小声で要求する形を伝える。ステファンとリュドミラには聞こえないように。
すると、オードは小さく「え」と、漏らした。
「……本気で言ってる? あんたアレは——」
と、途中まで言って、ジェイドの顔色を見た。しかし、全てわかったように、彼女はしたり顔をしている。あぁ、やっぱり今からでも否定した方がいいのかも知れない。だって、
「もう、ショコラトリーで売るものじゃないぞ」
一応、言えることは言った。それでもやろうというなら、こいつはおそらく百点満点か〇点かのどちらかしか狙っていない。大絶賛か怒られるかの二択。頼むから、怒られたらあたしの名前は出さないでほしい。
「そろそろ本気だって信じてくれた?」
覚悟のある目をしたジェイドは、戸惑うオードを飲み込む。分の悪い賭けであることはわかっている。が、思いついちゃったんだからしょうがない。だったらやるでしょ? だから手伝ってよ。そう、強く訴えかけてくる目。
引き込まれそうになったオードは、目線を逸らした。なんとなく、負けた気がしたが、張り合っても仕方ない。なら、片足だけジェイド・カスターニュという船に乗っけてみる。
「別に。どうでもいい。明日、持ってく。時間と場所指定して」
必要最低限の会話。寝る予定だったのに、ひとつ作らなければいけないものができてしまった。早く作りたい。
オードのやる気を確認し、ジェイドは指定する。
「いいね。一三時に音楽科のホール。細かいところは任せる。私は素人だし」
「わかった」
オードが自室のドアに手をかけると、肩をポンッと叩かれた。
「期待してるよ」
すると、必要最低限の会話で終わらせるつもりだったが、なぜかオードは会話を引き延ばしてしまう。
「ひとつ聞いていい? 春の新作、テーマは『フランス』?」
言ってから「あ」と、内心でオードは焦った。どうでもいいじゃないかそんなこと。
驚いた顔でジェイドは返す。まさか聞かれるとは、という表情。そしてそれは大当たり。しかし。
「それは言えない。どこまで言っていいのか、わからないからね」
事実。まぁ九分九厘大丈夫だと思うが、一応ジェイドは胸を張って「言ってない」と、これで言える。しかし、彼女は勘は鋭いようで、少しだけ驚嘆した。まぁ、これでバレちゃってると思うけど。
「そっか。ならさっきのあたしのもひとりごと。気にしないで」
そうしてやっとドアを開け、オードは入っていく。やることは決まった。やり方もわかる。さて、自由にやらせてもらおうか。
「なーにが期待だ。面倒なもの注文しやがって」
そう、一人ごちて、完成形をイメージした。
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