36話
「いや、まさかオードが友達を連れてくるなんてね」
時刻は二二時。遅い時刻ではあるが、『ディズヌフ』三階のリビングにて、温かいホットワイン、ヴァンショーを飲みながら家族と一名で談笑する。オードの父は驚きつつも喜びが勝っているようだ。
板張りの床に、壁にはカルトナージュやそれ以外にも様々な書物、写真が収納されたスカイブルーの本棚、四人掛けのテーブルとイス。空間が広く見えるように、背の高いインテリアは置かない主義。家主で父ステファンと、母リュドミラ、娘オード。それと、なんかいるジェイド・カスターニュ。
「初めてじゃないかしら」
母リュドミラも、娘の人付き合いの悪さを心配していたところがあった。人見知りをすることはないが、深く関わろうとしない娘。以前あったかどうか、もはや記憶にもない。
「そうなんですか。職人気質の頑固なところがありますからね」
夜分、閉店後に勝手についてきただけのジェイド。階段を上がっていったオードを見送った後、数秒経ってから普通に入ってみた。さすがに追い出されるかと覚悟はしていたが、なぜか歓迎されたため、ジェイドはそのまま食事と食後のブレイクタイムもお世話になっている。
「なんでこうなってんのよ……」
テーブルでは三人が会話しているが、娘のオードは少し離れたところにあるソファーに座って、雑誌を読みながら横目で見ている。そして愚痴をこぼす。厄介なことになった。どこだ? 原因は。彼女にカルトナージュを見ていたか、と質問された時に否定すればよかった? そもそも七区の店に行かなければ? どこかでなにかが間違って、今この現状がある。
気をよくしたステファンは、とんでもないことを提案する。
「なんなら泊まったらいい。今日は記念日だ。写真も撮ろう。写真立てはママのお手製カルトナージュだ」
はぁ? さすがに黙って聞いていたオードも口を挟む。
「いや、いいって。そもそも友達じゃないし。勝手についてきただけ」
「それを友達という」
「言うわけないでしょ」
ジェイドが話をややこしくしてこようとしたので、オードはそれを否認する。友達の定義は様々だが、急に家に押しかけて、夜中の二二時にワイン飲んでるヤツは、オードは違うと言い切れる。そもそも友達とか、そんなの必要ない。
リュドミラが仕立てた写真立てを手にし、ジェイドは様々な角度から研究する。今までカルトナージュというものを意識してこなかった、むしろしっかりとしたものを見るのは初めてかもしれない。感想。
「すごいですね……楽しい」
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