321話
そんな視線を感じる余裕もなく、言われたことを自らの内部でジェイドは吟味してみる。
「……一理ある、ね。根底にある部分を忘れていたかもしれない。やっぱりキミは最高の相棒だ。私の目に狂いはなかった」
のめり込みすぎる。それは時に長所でもあり短所でもある。もちろん、味に妥協をしているつもりはない。研鑽も研究もしている。だが、作ることに一生懸命で、食べる人のことを蔑ろにしていた、考えていなかった、というのは否めない。ショコラは食べてこそ、なのだから。空をイメージできても、それ以前の問題。
「あーもう、暑苦しい。で。どこに向かってんの、今」
なにか企んでいるな、とオードは疑う。パリ三区と四区の境であるこの場所は、若者が多く集まり雑貨屋やファッションブランドの支店などが軒を連ねる中心的な通り。観光客も市民も雑多に混み合い、賑わいを見せる。まさかただノエルの買い物を一緒に、なんてことはないはず。いや、あるのか?
ふふん、と妖しい笑みを浮かべたジェイドは振り向いて対面する。
「それはね、秘密。と言いたいところだけど、別に隠すつもりもないか。実はね、なにも決めていないんだよこれが」
「はぁ?」
ハッキリと言い切られてオードは困惑。しつつも納得。こいつはそういうヤツ。この前もそうだったし。当日いきなり「一緒に街に行こう」と誘われて。特に予定もなかった……というかいつもないから、渋々承諾。した時から心のどこかではそんな気がしていた。
空を見上げるジェイド。晴れていないのが少々悲しい。
「頭空っぽのほうが、色々と詰め込めるだろ? 夢とか。そんな気分で歩きたかっただけだ。キミとね」
熱い告白。にも関わらずオードは。
「あっそ」
と、受け流す。留学してくるくらいには頭はいいのだろうけど、変な方向にパラメーターは尖っているのだろう。主にショコラ方面に。




