314話
勘か、と自分の中でギャスパーは噛み砕いてみた。
「それが近いかもね。でも私の考えてることに共通するのは、フランスというものを『壊す』人材がもっといたらいいね、ってのはある」
「壊す?」
なにやら物騒な単語にオードは声が大きくなった。この空間では響く。芸術品を前に『壊す』。変な疑いをかけられなきゃいいけど、と焦りも。
静かにポスターを見つめながら、その先にある未来をギャスパーは思い描く。
「私のようなね、年寄りがいつまでも上にいてはいけないんだよ。いけないんだよってことはないけど。さっさと引導を渡してくれる人達が出てくることを祈ってるよ」
プロスポーツの世界でも、チームの若返りのためにベテランが放出されることがある。それをオードは想像する。しかし。
「いや、あいつは香水じゃなくてショコラで」
分野が違う。ショコラにしがみついて離れなそう。香水の世界にはたぶん、いかないだろう。もしいっても、なんかそれなりに成功しそうなところがムカつく。上手く立ち回りそう。
しかし満足そうな顔でギャスパーは秘密を明かす。
「香水に関してはね。すでにいるんだよ。首を縦には振ってくれなそうだけど」
「え?」
あっさりと。なんだか重要そうな情報を聞いたオードは目を見開く。そんな話、どこでも聞いたことないけど。ていうか、あんまそういうのに疎いけども。
スラスラと、初めて会ったばかりの少女に対しても、ギャスパーは隠すようなことはしない。
「近々、私の意志を継いだ者が出てくる。継いだとはいっても、彼女の才能は私とは比較にならない。とてつもなくスペシャルな存在だから」
きっと、遠くないうちに世界で最も有名な調香師になる。そんなビジョンが見えている。そうしたら完全に引退。やり残したこともない。




