312話
という風なことを考えているんだろうな、とギャスパーは読む。だからこそ。
「なら挨拶しとかないと。カフェとかでもいいんだけど、彼女とも美術館で会ったからねぇ。平等に」
あの子はなんだか不思議な子だった。あの若さで美術にも傾倒しているようだし。この子は逆に無垢。それはそれで反応が楽しい。
果たしてあいつとは。どんな話をしたのだろうか。それがオードの頭の中を支配する。
「あいつは……なんかそういう、芸術とか偉い人の言葉とか。詳しかったりするみたい、なので」
ついでに言うと頭もいいらしい、ということ。いつも変なことばかり言っているのに。やっているのに。そういうのもムカつくといえばムカつく。そんでもって、幸運をもたらしたりすることがあることも。今回の……ように。
「そうなの? カルトナージュ。すごく面白いよ。装飾、というものはひとつの芸術だ。海外でも流行ってはいるけど、フランスが負けるわけにはいかない。キミのはそうだねぇ……意欲というか欲望というか。そういうのを感じる。それがいい」
そんなに多くを見たわけではないが、ギャスパーにとっては『攻めた』印象のあるものがあって。それをカルトナージュと呼んでいいのかも含めて、そういうフランスの『殻』を破るような人物を評価したい。
相手は芸術という分野で成功した人物。その人物に褒められるというのは。お世辞であってもオードには嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
「そりゃ……ありがとう、ございます……」
そう返すので精一杯。きっと、ジェイドならなにか気の利いたひと言をセットで返すんだろうな、と言ってから思う。やっぱあいつが頭にチラつく。




