307話
自分達の間に収まっている少女。その不思議な雰囲気。ユリアーネは気になる。
「リディアさんならどうですか? どういった……ケーキであったりプラリネであったり。種類だけでも」
年齢は下。それなのに、人生経験が豊富そうな。そんな人物であれば。どんな輪郭を持つ?
リディア・リュディガーという少女は。とても捉えどころがない。他の人であれば、もしそれが誰であっても、自分とアニーの間に不躾に入ってきたら少しだけムッとしてしまう。それなのに。この少女の場合はそういうのがない。出てこない。なぜだろう。わからない。敵、ではない。むしろ味方? どっちでもない?
うーん、とあえて熟考してる『風』を装うリディア。コミカルに表情を変えつつ。
「なーんにも浮かばないね。私はそういう、無から有を生み出すタイプじゃないから。誰かの有をじっくりねっとり観察する側」
そして無遠慮に勝手に予想を立てる。それが当たってるかどうか、なんてどうでもいい。面白いほうに転がっていけば。結果などどうでも。
さらにアニーは違う角度からもギブアップする。
「ボクもさっぱりっスねぇ……リヴァプール……中々言語も難しいっスから」
「言語?」
なんのことだろう、とユリアーネは目を丸くした。リヴァプールはイギリス。ということは英語。彼女は語学に堪能なのに。
スッと紅茶を飲んで喉を潤すアニー。それについて説明を加える。
「スカウスです。リヴァプール訛り、と言ったほうがいいかもですけど。彼らの話す英語はイギリスで話されてる言語とはかなり開きがあるんです。発音がドイツ語近い部分もあったり、全く別物になってる単語だったり」
一九世紀に起きたアイルランドの飢饉の際、移民が多く住み着いたリヴァプール。そしてスカウスはそちらから影響を受けている言語とも言われている。そのリヴァプールの中でも北部と南部で方言に差があるのだが、それは地域というよりも実は『階級の差』によって生み出された。




