306話
自分達には聴こえないだけで、天体が動く時にも調和した音が発せられており、それによって宇宙は保たれている、という結論にピタゴラスは至った。この宇宙が奏でる音楽がいわゆる『天球の音楽』。
さらにその教えを受け継いだ哲学者プラトンが、アカデメイアという学園を設立。「音楽は宇宙だけではなく人間にも調和を与え、魂を救済する」ということで、カリキュラムに音楽を組み込んだほど。
そして時は流れ十三世紀、ヨーロッパ各地に大学が設立されると、一般教養として『自由七科』と呼ばれる七つの学問が必修だった。言語に関わる『文法』『修辞学』『論理学』、数に関わる『算術』『幾何学』『天文学』、そして『音楽』。特に天文学と音楽は密接した学問として、音楽と宇宙の調和の関連性などを議論したとされている。
ではなぜ天文学と音楽が並べられているのかというと、その『音程』によるところが大きい。ピタゴラスは弦の長さが簡単な整数比の時に、同時に鳴らすと調和されて濁りのない美しい音として響くことに気づいた。それが宇宙と重なった。
という説明を受けたのだが、やはりアニーにはピンとこないわけで。むしろ、よりこんがらがったまである。
「なにやら難しいっスねぇ……ボクにはなにがなんだか」
その気持ちはわからないでもないが、ユリアーネはまだついていけている。自分なりに纏めてみた。
「つまりは、気の遠くなるような昔から、音楽は宇宙と繋がっていると考えられてきたということですよ。私にも抽象的にしかわかりませんが」
「それでいいんじゃない? どうとでも受け取れるからこそ、語り継がれるわけで。答えがないから面白い。その音楽をショコラーデでっての。私は興味あるね。ビートルズという、ロックバンドにとっての神。それをどう表現するのか」
どんな味なのか。見た目なのか。香りなのか。どんな包装、装丁なのか。なぜそうなったのか。完成品を美味しく外側から吟味するのをリディアは好む。作り手の中身。そちらのほうが気になるから。




