305話
彼女もここ最近よく来るようになった。そんなこんなで夜の茶会を楽しみつつ、働く〈ヴァルト〉について話し合ったり。
突然の結びつき。知らない名言にアニーはたじろぐ。
「神……っスか?」
そんな大袈裟な。たしかにショコラーデは神がかって美味しいけども。神。音楽。ショコラーデ。どんな繋がりが?
とはいえ、その真意をリディアもよくわかってはいない。あくまで自分なりに噛み砕いたこと。
「ま、神とは言っても? 色々な神がいるから、具体的なものはなにもわかんないけどね。知ってる? 例えば日本には森羅万象全てのものに神が宿っていて、自然だったり学問だったり。形のないものまで様々」
「ならショコラーデにも」
と、ユリアーネ。『神』と称されるショコラティエはいるのだろうけども。そういったものとは違う、あの甘くて苦いお菓子に宿る神様。それはどんな存在なのだろうか。
「紅茶にも。コーヒーにも。ユンヨンチャーの場合はどうなんだろうね。それらの神々が半々なのかな?」
美味しければなんでもいいけどね、とリディア。事実、彼女はどっちでもいいし、あまり目に見えないものは信用していない。神など、いてもいなくても。いたら、チェスでも一局どう? そう誘ってみたい。
だがまだアニーは話の全体像が掴めない。
「でも、音楽だけでいいってのはどういうことなんスかね? 神様の証明と言われても、ピンとこないっスよ」
難しいことは苦手っス。もっとこう、紅茶美味しいとか、そういうのだけの世界で生きていたい。
年齢に似合わず博識すぎるリディア。その知識は古代の哲学者にまで。
「ピタゴラスを始め、紀元前から数学者や天文学者は、宇宙と音楽の関係性について研究していたからね。ほら、宇宙と神ってなんだか近そうじゃない?」
どう? 二人に促す。




