304話
そんな事実をもちろん知らないユリアーネには、穏やかで素敵な夢が約束されているようで。
「……アニーさんらしいですね。私も見習わないと」
自身に発破をかけつつ、明日への活力に。常に勉強。学習。カフェの経営に終わりなどないのだから。
なんだかアニーにはむず痒い。たいしたことをやっている、という自覚がないから。真っ直ぐに言われると。恥ずかしさも。
「い、いやいやいや! ボクのほうこそユリアーネさんに頼りっぱなしっスから。頑張らないと」
さらに紅茶をひと口。さっきより味がわからない。緊張。それなりに一緒にいることもあるけども、やっぱりこの人は可愛いから。そんな人が横にいる。手を伸ばせば届く距離に。ていうか、いつも一緒に寝てるけども。
すると。
「……ふふっ」
なんだか。その慌てふためく様がユリアーネには可笑しくて。つい頬が緩んでしまう。
「にひひ」
つられてアニーも笑う。こんな日がずっと続けばいいのに。いや、続いていく。そうに違いない。
「それにしても、改めて、音楽をショコラーデにって。全く想像がつきません」
話は戻って、少なくとも。ユリアーネ自身には思い付かないこと。音楽は音楽。ショコラーデはショコラーデ。どういう感覚なんだろうか。それは楽しいこと? それとも生み出す辛さが勝るのだろうか。まぁ、横に香りを紅茶に表現する人もいるけども。
ほんわかとした夜の宴。少女達。
すると、その間にずいっと無理やり体を捩じ込む人物あり。
「アメリカの小説家、カート・ヴォネガット曰く。『神の存在を証明するには、音楽だけでいい』。あながち、その子の言っていることは間違いじゃないかもね」
知識を披露しながら、二人と同じくこれまた寝巻きの少女が割り込む。リディア・リュディガー。年下ではあるが、一番不遜な態度で。手には紅茶とコーヒーのミックス、ユンヨンチャーの入ったカップを持っている。カフェインたっぷり。




