302話
薄く、消えてしまいそうなほど曖昧な輪郭ではあるが、ジェイドの指先に微かな感覚が宿る。『ビートルズ』。『ルーシー』。まだほとんどなにもないようなものだけど。たしかな手触り。感触。
「ビートルズっていうのはそうだね、言うなれば源流のような、ショコラで言うならばケーキであったりクッキーのようなシンプルなものにすべきかと思っていたが、どうも事情が異なりそうだ。むしろ、どこか『毒』のような危険性を孕んでいる」
幻覚剤、とか言われてしまうとそう考えるのも無理はない。複雑な内面。経過。これは研究しがいがある。うん。
一旦は役に立てたようでフォーヴも安心。なにかヒントになればいい。
《そういうこと。だが、やはりそこも魅力ではあるんだよ。危険な人物ほどカリスマ性があるからね。毒は薬にもなる。要は使い方次第だ》
「あぁ、面白い、非常に面白いよ。もっと自由に、空を飛べると信じて私も考えないとね。ふふ、ふふふふ……」
室内を歩きながらジェイドは薄気味悪く笑う。立ち止まってはいられない。動かないと。脳に溜まった熱が放熱できなさそうで。
《け、検討を祈るよ……》
それしか。祈るしか。フォーヴは返せずに電話を切った。まずいスイッチでも入れてしまったかな?




