299話
だが数秒、間が空く。待っているジェイドが「?」と疑問符を浮かべたところで、ゆっくりとフォーヴが重い口を開いた。
《……いや、彼女はそのどちらでもなかったんだよ。喜びも悲しみもしなかった。正確には、どう受け取ったのかはわからなかった、かな》
電波の向こう側で頭を振る。そうではないと。そういう次元ではない、と。ここからは真偽不明なのだから。
キョトンとしながらジェイドは片眉を吊り上げた。
「というと?」
しかしもしかしたら、という予想も同時に。というか、たぶんそうなのだろう。予想だけしてみる。
《たしかに存在したんだが、彼女はすでに亡くなっていたんだ。曲が発表される二七年も前にね。だからわからないんだ。残念ながらね》
彼女が生きていた時代には、ビートルズというものは存在すらしていない。だがきっと今頃は喜んでいるんじゃないかとフォーヴは想像している。そうであってほしい、のかもしれない。
なるほど、納得。とはいえ、どこかジェイドには腑に落ちない部分がある。
「だけどそれが奇妙、というのは? たしかに残念だが、そこまで話題になるほどでもないんじゃないかな」
至極もっともな意見に対してフォーヴが返す。
《彼女の墓石の場所が問題でね。見つかったのはセント・ピーターズ教会というところなんだ。ウールトンという、リヴァプール郊外の地域》
「ふむ。それで?」
《実はこの教会こそが、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが初めて出会った場所でね。そこの墓石にエリナー・リグビー。なんだか霊的なものを感じてしまうよ》
私はそういうものをあまり信じないほうなんだがね、とフォーヴ。ホラー映画は得意じゃない。ホラー、というかミステリー?




