298話
ふむ、と少々ジェイドは考え込むが、どこもおかしい点は見当たらない。
「『エリナー・リグビー』というものが? これは……人の名前、かな。メンバーの誰かの初恋の相手、とかなんだろうか」
ひとまず予想を立てる。答えの出ないもどかしさも相まって、そのままベッドで横にゴロンと倒れ込んだ。スプリングでバウンド。
《いや、これはポール・マッカートニー曰く、全然知らない人だそうだ。名前の響きだけで適当につけたらしい。運が良ければ『ジェイド・カスターニュ』とつけられていたかもね》
なんて万にひとつ、億にひとつの可能性をフォーヴは考慮する。もしかしたら『フォーヴ・ヴァインデヴォーゲル』になっていたかもしれない。そうなっていたら、もっとビートルズの曲を聴き込んでいたはず。
それはいい、とジェイドもその提案には乗る。
「でも実際にエリナー・リグビーさんというのがどこかにいそうだ。いきなりビートルズの曲名になってさぞ驚いたんじゃないかな。そういう信じがたい話?」
今でこそ第三者の名前がついた曲というのは多いが、それもファーストネームくらいなもの。ファミリーネームまでついたものは極稀だろう。そういった意味ではたしかに不思議。
フォーヴの声色がより柔らかくなる。
《惜しい、けど実際はもっと奇妙でね。第三者の、それも全く知らない人の名前をメインにするなんて、当時でもかなり話題になってね。そしてたしかにエリナー・リグビーさんは存在したんだよ。それもリヴァプールに》
クレッシェンドに声を大きく強く。ちょっとだけ興奮の色付け。
ビンゴ、としてやったりの顔をするジェイド。適当に言ってみるものだ。
「やっぱりか。さぞ喜んだだろうね。もしくは、悲観的な曲というなら、逆に悲しんだのかな」
自分であれば嬉しい。ファンであったなら尚更。悲観的ならそれはそれで、そういう時に歌えばいい。バリエーションが増えた、くらいに考えられる。




