295話
なんだかずっとメッタ打ちにされている気分のオード。少々毒づく。
「そういうそっちは何色の何なのよ」
まぁまぁ濁ってそうな色合いと予想。ドス黒いオオカミとか。しかし。
「真っ白な子羊。経験を積んだ虎に食べられるだけの存在。バーテンダーってのはそんなもんだよ。お客の血肉や明日への活力になる。接客業ってのはそんなもんかもな」
グラスを磨きながら、さも当然というかのようにビセンテは言い切る。その職業の人達はみな。そうあるべきと。
それならばカルトナージュは。オードにとって。受け取った人にとって。その存在意義。
「あたしは……」
「世界は子羊と虎のバランスで成り立っている。ジェイドのショコラとオードのカルトナージュ。どっちかがベンガルトラみたいに巨大になったのなら、小さな子羊では胃袋は満足できなくなるぞ。どっちも小さな世界で終わるか、両方デカくなるしか道はない」
自分にできるのはこれくらい、とビセンテは言葉を終える。いや、役に立つかとかはわからないけど。なにかできるとしたら、程度。
一瞬目を丸くしたオードだったが、すぐにニヤニヤと不敵に笑う。
「……あー、もしかしてあたし達のこと気にしてくれてるわけ。なるほどなるほど」
やたらと遠回りしてるけど。わかりづらいけど。可愛いとこあるじゃん?
丁寧に仕事をこなしながらビセンテは、
「そうだが?」
とあっさりと肯定する。若者を導いたり、課題を与えたりするのは大人の仕事。大きなお世話だったらそれはそれでいい。やるだけやってみる程度の軽さ。
虚を突かれて唖然とするオードだが、軽く伸びをしてイスから立ち上がる。
「……そんな子羊みたいに無垢に言われてもね……ま、なーんにも案なんかないけど。やってみようかね」
とんでもない、どぎつい尖り方してやるから。そういうの作ってやるから。あんたはそれを受け止めるだけの丸さと柔軟さを持っていればいいだけ。それに合わせらんないようなら、あんたはそこまでってことよ。お互いにね。そーでしょ、ジェイド・カスターニュ。




