293話
ここまででもまだオードにはピンとこない。まどろっこしいのは苦手。
「だから無理やり今風に解釈すると、どうなっちゃうわけ? 全然わかんないんだけど」
頬杖を突いて投げやりに。もう思考は放棄。でも気にはなる。知識として。
不意にグラスとウイスキーのボトルをビセンテは取り出した。それぞれ手に持つ。
「虎と子羊。それぞれ『経験』と『無垢』を表現していてな。『経験』を重ねると『無垢』なものは悪に染まる。神は無垢で穏やかな子羊だけではなく、凶暴で凶悪な虎も創造した」
なんとなく虎をウイスキー、子羊をグラスと見立ててみる。経験、つまり熟成したウイスキー。まだなにも注がれていない無垢なグラス。そんな感じで。
今のところはオードもついていけている。
「ふむ」
それっぽく頷く。先ほどよりかはイメージできる。この人、そういうの上手いのかもと感心。
さらにビセンテは説明を続ける。
「これの面白いところは、弱者であるはずに『子羊』の詩は、エクスクラメーションマークなどで歯切れ良く言い切っている。にも関わらず、絶対的な強者となったはずの『虎』の詩には、クエスチョンマークが多用されているところ。経験を重ねると疑問が浮かぶようになる」
初めて読んだ時は正直、全く意味がわからなかったのだが、研究してみると「なるほど」とのめり込んだ過去。現代のわかりやすい文章や物語と違って、昔の詩や映画などは受け取った側任せで、どんどんと疑問が浮かんでくる。それが心地良くなってくる。自分なりの、自分だけの解釈。
話の輪郭が掴めてくると、聞き手のオードとしても面白くなってくる。
「なるほど。なんで今そんな話してるのかわかんないけど。言ってることはわかる気がするわ」
「オードはどっちだ?」
唐突に。二択を迫るビセンテ。




