291話
なんか変な空気になっちゃった、というのをオードは肌で感じ取る。
「なんで? ゴリラ可愛いじゃん。オランウータンとか。チンパンジーとかマントヒヒとか。フォルムが」
犬とか猫とかも可愛いけど。ゴリラの歩き方とか。あと、案外繊細でストレスに弱いらしいところとか。ギャップ?
「うーん、まぁ、わからなくもないんだけど……」
思っていたのとは違う返答にビセンテは戸惑う。瞬きの回数が増えたことがそれを証明している。
はっきりとしない物言いに不満気なオード。眉間に皺が寄る。
「なによ」
「もっとこう、女の子ならフワフワモコモコっとしたのを予想していたもんで」
勝手な先入観だとはビセンテも思うけども。いや、普通そうじゃない? 可愛い霊長類は? とか聞いたのならまだ……いや、それでも猿とかなはずだよなぁ。
自分、が若干ズレているのはオードもわかってはいるけども。それでもこんなあからさまだと口調も荒くなる。
「だからゴリラってモコモコしてんじゃないの。フワフワも。それでいて握力は五百キロくらいあるとか。実は草食で、特殊な腸内細菌持ってるからあんな筋肉持ってるとか。強さと可愛らしさを兼ね備えてるのよ。わかる?」
なんだか専門家みたいになってしまったけども。別に一番好きな動物が、ってわけじゃないのに。いや、なんでこんな憤慨してんのあたし?
このままだと自分にゴリラの知識がどんどん増えていくと察知したビセンテ。困ることではないが本題はそこではなくて。
「……まぁ、それは置いておいて。とりあえずゴリラではない。ヒントは白。白い個体を見かけるのが一番多いか」
白。一面に塗りたくられたその色をオードは頭に描く。そしてじわじわと形作られていくと。
「……クマ」
というところに行き着く。白クマ。北極でのっそのっそ歩いてるヤツ。たしか南極は他の大陸と繋がっておらず、泳いで渡れないからいないとか聞いたことがある。そのクマ。




