290話
相手は最近ここに通い始めたオード。この雑多な空気が気に入り、ちょくちょく来てはこうやって話している。カルトナージュのネタ探しも兼ねて。ジェイドと一緒だったりもするが、今日はひとり。
「……なんか嫌な感じね……虎でしょ? ライオン……は普通っていうか似たものだし。あ、ほら、ほらあれ。龍。ドラゴン、ドラゴン。なんか見たことあるわ対になってるの」
争ってる絵。たしか中国だかあの辺の思想とかなんとか。いや、空飛んでる龍のほうが絶対有利でしょと判定したこともついでに思い出した。賭けるなら龍。百ユーロくらいなら。
なんだか若干の歯車の噛み合いの悪さ。ビセンテの眉間の皺が寄る。
「ドラゴンは生物か? 架空の生き物の気がするが」
言いたいことはわからないでもないけども。あれ? 龍って生物じゃないよな? 違うよな? ていうか、龍っていったいなんなんだ? 俺はいったいなんなんだ? とパニックになってきた。
しかしオードの認識としては、間違いなく『生物』。
「空飛んでる蛇みたいなもんでしょうが。タツノオトシゴとかいるでしょ、あれもドラゴンよ。まぁその反応からして違うみたいだけど」
それでも不正解だということはわかる。対、と言われても。やっぱライオン? もしくはキリンとかゾウとか。サバンナにいそうなやつ。
「ヒントを出すとな。『虎』は凶暴なものを表す。その反対。無垢で愛らしいものを——」
「ゴリラ」
うん、とオードは自信と確信を持って頷く。
それとは対照的に表情が固まったのはビセンテ。
「……は?」
と返すので精一杯。落ち着いて。もう一回、言葉を反芻して画像を頭に浮かべてみる。精悍な顔つきの霊長類。人間の数倍の膂力を持つあの。やっぱり。




