282話
彼女達はまだ未熟だけれども。いい師に巡り合った一日は、無為に過ごした十年を超える充実を得ることができる。だからこそ。味方はひとりでも多いほうがいい。スカウトにも精を出す。が。
「断る」
やはり気分が乗らないリオネル。そういうのは店を通して注文してほしい。口約束などビジネスにおいては言語道断。受けるかどうかは別として、ともかく安請け合いはしない。
予想通りだけれども、はいそうですか、とギャスパーも簡単には引き下がれない。というのも。
「そう言わないでよ。これはキミのためでもあるんだからさ」
もちろん向こうにもメリットはある。これで釣ってみる。使える手は全部使う。他にもフローリストのM.O.Fは知り合いに何人かはいる。だが、この男がいい。この人物だからこそ。
ここまで爺さんが食い下がらないのはなにかあるな。こういう時はリスクとリターンが合ってない、ということはリオネルにはわかりきっている。
「どうせ労力に見合わんだろ。ゆえに断る。忙しいの。わかる?」
この教会の花もそうだが、ノエルの時期は色々なところでパーティーやらイベントやらが盛り沢山。一応、パリを代表するフローリストではあるが、なんでもかんでも受け付けるというわけではない。これ以上仕事を増やすつもりもない。
押し問答。娘が頑固なのは父親譲りか、と妙にギャスパーは納得。
「やれやれ。一緒に悪いことしよう、って誘ってるのに」
まぁ、ここまでは想定内。でも結局、この親子は勝手に巻き込まれてるってことに気づくのは、全てが終わってから。




