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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
ビートルズ
268/317

268話

「ショコラの香りがする香水は数あるけど、そのどれとも違うものが作りたくてね。ほら、ショコラにも色々あるじゃない? フルーツ味のとか」


 香水界のニコラ・テスラと呼ばれる魔術師が求めるもの。それはシンプルでありながら、さらにその先を行くための魔法。


 たしかにプラダやエルメスの香水の中に、ショコラの香りがするものがあった。食べ物以外でも、関することであればジェイドも知識としては知っている。


「ありますね。つまりは香水とセットで販売するショコラを私が作る、ということ」


 即座には全く解答が出せないけど。考えてみる価値はあるのだろう、なんて程度には興味はある。意外と興奮せずに冷静な自分に驚いた。M.O.Fが仕事をくれるというのに。ピンときていないのかもしれない。


 理解が早くてギャスパーにとっては助かる。が、それでは完璧ではない。


「半分正解で半分ハズレ。今回のテーマは『音楽』。聞いてるよ、映画の音楽をショコラにしてるって」


 正確には、聞いてるし見てる。ロシュディから画像も送ってもらって。非常に面白い。映画の音楽というところに目をつけて、ストーリーをなぞる様に。ひとつひとつに意味がある。


 どこまで自分の個人情報が漏れているのだろうか、と前向きな思惑に支配されつつもジェイドは静かに肯定。


「……まぁ、そうですね。まだ目に見えて実績は残せていませんが。趣味の一環みたいなものです」


 ちょっとだけ謙遜。趣味、ではもちろんあるが、それと同時に叶えたい夢でもある。その背中がようやく。前方一キロ先くらいに見えてきた、気がしないでもない程度には。


「それでいい。どんなものも趣味くらいがちょうどいいんだ。仕事にするもんじゃあない。のめり込まないからこそ、見えてくるものがある」


 長いこと続けてきたからこそ、ギャスパーにも下の世代に伝えられることもある。気合を入れて熱心に作り出すより、ダラダラと惰眠を貪っている時にいいアイディアが出てきたり。案外、堕落は必要不可欠なもの。

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