267話
そして老獪なテクニックをついでにギャスパーは伝授。
「批判に関しては『宣伝していただき、誠にありがとうございます! 引き続き応援よろしくお願いします!』とだけ考えるのがちょうどいい。私はね。いつまでも自分のような老人が、フランスが世界に誇る分野で上に居座るべきじゃない、と思っているんだよ」
くくっ、と声を殺して笑う。自身の居場所を自身で奪う。いつまでもしがみついていたい、それでいてさっさと道を譲りたい。せめぎ合い。しかしその矛盾は、今は後者に傾いている。
要するに隠居したいということか、とジェイドは雑に解釈。
「そのために私を推薦してくれている、ということですか? 光栄ですね。一度お会いしただけなのに」
「もちろんキミだけじゃない。私の知る限りだけでも何人かいるんだけどね、次世代を担えそうな若者達が。キミはそのひとり」
「オードはどうです? あのカルトナージュ。見事なものでしょう」
以前作成した『フランス』をテーマにしたショコラ、そしてカルトナージュ。それを披露したことをジェイドは回想した。その時ボンボニエールという、砂糖菓子を入れる容器をオードに仕立ててもらった。
本来であれば、ロシュディにのみ披露するはずだったもの。だがなんの因果か、運がいいのか悪いのか、この酔狂な老人にバレてしまった。ベルギーから来た、ショコラティエールという人物の存在が。
「あれもいいね。私の香水は彼女に包んでもらおうかな。それも面白い」
中身は当然のこととして、ボトルや箱にもギャスパーはこだわる。ピンヒールのような形をしたものであったり、カクテルグラスなんかも実際にある。遊び心。それだけはいつまでも忘れてはいけない。
なんだかまた変な方向に話がズレていきそうな雰囲気を、ジェイドは察知した。そろそろ全容を掴みたい。
「それで。コラボというのはどういったものですか?」
しかしなんとなくはわかっている。ショコラティエール声をかけるのだから。そしてそれは正解で。




