259話
「ほら、これでも持って帰れ」
そうぶっきらぼうにベアトリスが手渡したもの。シンプルなバスケットに、緑を中心とした色合いで詰め込まれたアレンジメント。華やか、ではないが目に優しく心が落ち着く構成。
ドアの前でオードは受け取りながらまじまじと見やる。帰ろうと思ったところに思わぬサプライズ。
「? なにこれ。もらっていいの?」
アレンジメントこのまま、というのもなんだか少し街中では浮くかもしれないが、パリでは花束を持った人がよくいる。それの一種みたいなものだろう。
フランスの芸術、カルトナージュ。小物入れやケースなどが多い中、面白いものが見れたとベアトリスはこう見えて上機嫌。
「手ぶらで帰すのもなんだ。それでも家に飾るといい」
すでに出来上がって飾ってあったものだが、この映画にはよく似合うだろう。
お土産がついてくるのは嬉しいが。お礼に来ただけなんだけど、とオードは複雑な気持ち。でももらえるなら有り難く。
「ふーん、ありがと。綺麗なもんね。これはなんの花?」
ひとつひとつ解説してもいいのだが、種類が多いため数種類かい摘んで。ベアトリスが優しく花に触れる。
「アナベルやシャワーグラス。その他野草に近いものでまとめてみた。リボンも洒落ているだろう?」
その持ち手には何周か巻いたあと、リボンが結ばれている。色味の抑えた花に合わせるようにとファウンテンブルー。
それに気づいてオードは歓声を上げる。その手触り。
「へー。おっ、リバティプリント。タナローンか。あたしも好き」
生地と柄に好感触。リバティプリント、つまり小さな花が敷き詰められた柄で、タナローン、それは細い糸を使ったコットン。ウチにも売ってる。素材で喜べる。




