256話
さも当然のことのようにビセンテは認める。感情は動かない。
「入っていない。俺に任せたんだから文句を言われる筋合いはない」
バーではノンアルコールももちろん存在するわけで。弱い人でも楽しめるように、様々なカクテルを即興で作り出す。ほんの少し分量を変えたり、普段使わないような野菜やフルーツを使うオリジナルも無数に店によって持っている。
なにやら騒がしくなりそうな予感を肌で感じ取りつつも、ジェイドはそのカクテルに夢中になる。オレンジとシロップの赤が美しい。プースカフェのような、きっちりとした層で分かれているわけではないのだが、その曖昧な境目がとても。
「すごく綺麗ですね。なんていうカクテルなんですか?」
まるで日暮の海辺のような。オレンジと赤に染まるそのカクテルの名前。
材料を元の場所に戻しながらビセンテがそれに答える。
「『アリゾナサンセット』。無糖のソーダを使えばよりスッキリと仕上がる。このグレナデンシロップとオレンジの対比が、アリゾナの日没をイメージしている」
今回使ったものは市販の炭酸飲料。あまり味が強くなく、色が濃いものでなければ、どんなものを使ってもいい。アレンジの幅も広く大きい。
へぇ、と知識のひとつとして蓄えつつ、ジェイドは一点気づいたことがある。ハッとして顔を向けた。
「アリゾナ、ってもしかして——」
「ジャックの故郷だ。グレナデンシロップは糖度の関係上、下に沈みやすい。他にもサンセットと名のつくものは多いが、だいたい入っている。命名権は早い者勝ちだな」
映画はビセンテも履修済み。なにかそれに関する酒はないか、と朧げに考えてはいた。その他カリフォルニアサンセットなどもあるが、こちらはアルコールあり。なぜノンアルコールを選んだのか。
その答えはジェイドの口から。作中でも言及されていたことだが、それに合わせていることは明白。
「……作中で依存症になってましたからね、ジャック」
アルコール依存症となり、いくつかの失敗を重ねて療養施設にまで入ることになるわけで。もしこの映画にカクテルを合わせるのであれば、こういったものも面白い。
しかし諦めの悪い大人もいるわけで。
「ぐぬぬ」
「お前はこのあと仕事だろう。それで我慢しろ」
未だ鋭く睨んでくるワンディを、キッパリとビセンテは突き放す。突き放すとはいっても、充分に納得のいく『カクテル』。文句を言われる筋合いはやはりない。




