254話
眉を吊り上げ、ワンディは食べたものの味や形を思い返す。仕掛け?
「なにかあった? 歪な形のカルトナージュ、二種類の味のクッキー、三〇種類の形」
とりあえず羅列してみる。むしろ、これだけでも充分な気もするが。贈り物としても、日常的に食べるにしても。もらったら嬉しい。
勝った。いや、なにも勝負していないけど。だがジェイドはチャップリンの時に課題を出された時を思い出すと、罠に嵌められたような終わり方をさせられた。なので、少し意地悪してみたくなったりもする。
「二種類、ではないんです。よく見てください、アリーのほう」
そしてコーヒー豆をまぶしたクッキーの中に、違う光りかたをしたものが見受けられる。これこそが最後の遊び心。
そう言われるとたしかに。味だけに集中していたワンディ。言われないとわからなかったが、言われるとはっきりと違いが見受けられる。そしてその違い、コーヒーではなく非常に慣れ親しんだもの。
「……これは、カカオニブ? コーヒー豆じゃなくて、カカオニブを砕いたもの」
先ほどと同様、いや、それよりもじっくりと凝視した結果、このまま使うことは基本ないが、自分達が常日頃からお世話になっているカカオであることに気づいた。それを細かく砕き、まぶしたものになる。それが混ざっていた。
割合でいうと一割ほどがそれになる。普通は気づかないのもジェイドの想定済み。というよりも、気づかないくらいでちょうどいい。
「その通りです。味は二種類ではなく三種類あります。カカオぶんの高いものを使っているので、より深くショコラの味を感じることができるでしょう」
メレンゲクッキーは甘い。なのでジャックのほうは甘い余韻が残ったままだが、アリーのほうは苦味と、さらなる苦味の二種類を持って終わる。その意味。
そこへ、店主であるビセンテが目の前へやってくる。普段から冷静な彼ではあるが、ほんの少しの笑顔。それが逆に怖い。
「言いたいことはわかるな? そろそろ注文」
先ほどからなにも注文せずに話し込むヤツらがいる。しかもショコラまで広げて。ジャズバーということもあり、外や他のフードコートに比べて混雑具合は控えめで、知り合い同士であるとはいえこれはビジネス。利益を出さなければいけない。
それはごもっとも、とワンディは店主の腕前を信じる。ちょうど喉も渇いてきた。
「なら、このショコラに合うカクテルを。よろしく」
甘い、だけじゃない複雑な苦味を持ち合わせるひと組の男女。それとマリアージュするお酒。というか、ただただ飲みたいという気持ちが沸々と抑えきれなくなる。




