249話
しっかりと言いたいことから流れまで、ベアトリスとしても理解できた。その意を汲む。
「……まぁ、受け取ろう。で? 以上か?」
伝わっててよかった。喉に引っかかっていた小骨が取れたような、安堵感がオードを包む。
「うん、まぁ。リオネル・ブーケさんにもさ。よろしく言っといて」
始まりはこの人から。もらった花は、水を足しつつ家でまだ現役で活動中。オードリー・ヘプバーンをイメージした花。ファンにはたまらないだろう、きっと。
リオネル。その名前が出たことで、ひとつベアトリスに変なスイッチが入る。本来であれば紙袋の中身はあとで確認してみよう、とするはずだったが、なんだか今すぐ確認したくなった。
「……これは売り物ではないな。手作りか」
取り出し、店内中央の木製テーブルの上に置く。ハート型のカルトナージュ。側面や底にはバラの花柄。そして蓋には音符が描かれた布。両方とも少し色味が抑えられており、シックな印象を受ける。
世間話であれば苦手であることも多いが、作品についてであればオードも口が先行する。ましてや相手はなにも情報がないのだ。それくらい少し解説したっていいだろう。
「カルトナージュはあたしの。で、中身のショコラは違うヤツの。売り物……にいつかなったらいいなってやつ」
そう。自分は名前を売りたいのだ。もっとカルトナージュが世界に広まって。今でも結構広まってはいるけど。カルトナージュといえば、という代名詞になるくらいに。パントマイムといえばチャップリン、みたいな。少しずつ前のめりになる。
かたや冷静に、箱を手に取って確認するベアトリス。上から下から。目を細めて注意深く。
「見事なカルトナージュだ。店のディスプレイのような。時期的にも合うだろう」
丁寧な仕事。作り手の魂が宿っているような。サーモグラフィーで見てみたら、若干温度が高いかもしれない。比喩だけど。
だがそれはオードにとっては嬉しい返し。営業成功かもしれないという喜びに、テーブルに両手をついてさらに前へ。
「! だったらさ、もっと大きなのも作れるから、こういうところで置けたりしないかな? 指定があればそれでできるし、色とか柄とか」
やたら早口。脳の処理よりも早い、かもしれない。やはりガンガン近づいていかなければ勝ち取れない。あまり人脈を広げるとかは得意ではないが。少しずつ強引さが誰かのせいでつられて引き上げられているのかもしれない。




