248話
八区にある花屋〈ソノラ〉は土曜日にも開店している。というよりも店主の気分次第で勝手に開き、勝手に閉まる。現在の時刻は一五時。まだ店主の機嫌はそこまで悪くない時間帯。
「どうも」
そこに訪れたのは、紙袋を手にした制服姿のオード・シュヴァリエ。通算で三度目の来店。毎度のことながら、リオネルの件を思い出すと少し緊張する。
それに反応したのは店主ベアトリス・ブーケ。店のエプロンを着用した彼女は、腕を組んで脳内で花を構築している最中。
「? どちらさんだ? 予約は——」
「していない。ただ、置きに来ただけ。これ」
と、言葉少なにオードが差し出したものは、手にしていた紙袋。顔を背けてぶっきらぼう気味。
全く話が読めてこないベアトリスだが、一応は受け取ってみる。悪いヤツではなさそう。たまにこういった風に、お客さんからお菓子や雑貨をもらったりすることはある。
「……これは?」
重さはそれほどでも。中にはハートの形をした派手な箱。今のところはまだ理解の外側。
気まずい。せめてシャルルかベルがいれば、と後悔しつつもオードは、ここで引くのもそれはそれで怪しい。仕方なしに軽く説明から。
「最近、この店に来させてもらってて。そんで色々と話とか。アドバイスとか。そういうのもらってるから。なんか聞いてない?」
頼む。誰でもいいから話を通しておいてくれ。すがるように願う。が。
「いや? そうか、それで使おうと思っていた花がなくなっていたわけだ」
ここ最近、頼んでおいた花がなくなっていることをベアトリスは気にしていた。そうか、そういうことだったのか。相手の頭から爪先まで睨め回す。
失敗。元を辿れば自分のせい。それがわかっているオードに返す言葉はない。視線を逸らす。
「それは……ごめん」
ていうか、それでも全てが自分の責任、というのも納得いかない気が。自分のせいなんだけど。わかるけど。
とはいえ、もちろんベアトリスも本気で憤慨しているわけではない。シャルルもベルも勝手に使う。そもそも全てリオネルが経費を支払っているわけで。
「いや、いい。花はそういうものだ。声が聞けたならそれでいい。で、それは?」
なので、その花が癒してくれたのなら、なにも問題はない。顧客として増えるならなおよし。
「そのお礼、って言っていいのかな。お金、いらないとは言われたんだけど。なんかそういう……アレでもないじゃない? だから、こういうのでもいいのかな、って」
しどろもどろになりながらだが、伝えたいことは伝えられたオード。伝わっ……た、よね? さらに足したほうがいいか迷う。伝われ。




