246話
その強気な姿勢がジェイドにも伝播する。見ていないからなんとも言えないが、きっと素晴らしいものを創造したのだろう。
「やはりオードに頼んでよかったよ。あの時の私を褒めてあげたいね」
あの時、とはもちろん初めて出会った時。ひと目見ただけで「この子だ」と直感が囁いた。ブルっと身震いする。
《……? なんかあった?》
いつも通り。その中になんとなく、オードは違和感を覚えた。ほんの微かな。見逃してしまうそうなほどにわずか。
携帯の画面を見つめるジェイド。その先にいるはず彼女が目の前にいるようで。こういうところも、心底よかったと思える部分のひとつ。
「……そうだね。こんな日だ。私は——」
《あー。聞く気はないから。こんな日ってなによ。朝の四時だっつってんでしょ》
画面の通話終了ボタンを押しそうになりながら、オードは話が変な方向に流されそうになることを防いだ。ただでさえかかってきて憂鬱なのに。なぜ身の上話のようなものまで聞かされる? ならば寝てるほうが有意義だろう。
なるほど。そういうアレか、とひとりジェイドは納得。むしろ彼女はこうでなきゃ。もし自分が崖で落ちそうに片手でぶら下がっていたら、値段交渉してから助けてくれるタイプ。
「カルトナージュはどんな感じなんだい? イメージしたものとか、ショコラとどう組み合わせるとか」
アリーとジャック。さて、どう捉えたのか。単純に気になる。
話せば長くなりそうなので、眠気で頭が回らないオードはバッサリと切り捨てる。
《別にショコラのことなんかなにも考えてないわ。ていうかよく考えたら、なんであたしがあんたに合わせなきゃならないのよ。そっちこそ、カルトナージュに相応しいものを用意しときなさいよ》
芸術がどうとか、詳しくないのに語るのは恥ずかしい。そっちのほうが詳しいだろう。名言とかなんかいっぱい知ってるし。だったらなにも語らないのが一番。お互いに利用するだけの関係なのだから。
少し寂しい気もするが、秘密を抱えあっているという関係性も悪くない。ジェイドは了承する。
「オーケーオーケー。実際に見るときまでのお楽しみにしておくよ。出来上がったら——」
《あのさ。誰に渡すとか決めてんの?》
オードが言葉を被せる。出来上がったら誰かしらに見せて、食べてもらうわけだが、ちょうどいいので聞いてみた。
そんなことを聞いてきたのは初めて。とはいえ、一応は誰に提出するために作っているのか、ということはジェイドも当然決めている。
「そうだね。ワンディさんかなとは。なんだかんだで一番お世話にはなっているし」
性格はまぁ、あんなだが、指摘してくる点や知識を鑑みても、やはり自身よりも一枚も二枚も上手。意見ももらいたい。




