245話
「決まったら……早かった、かな」
人の数だけある愛の形。それを正解も間違いもない、曲の意思をジェイドはショコラに混ぜ込んでみた。片方にはジャックの想いを。片方にはアリーの想いを。そんなに画期的なショコラ、とは思わない。だけど、作り終えてみるとこれしかない、というような充足感に満たされている。
携帯をポケットから取り出し、時間を確認する。深夜の四時。明日、というか今日か。今日の学校は午前中だけだから、まだマシなほうか。寝ていなくてもなんとか乗り切れるだろう。
「……いや、少しだけ寝よう。いやいや、やっぱり寝たら起きられないか? どうする?」
部屋の中をグルグルと回りながら、もしこれで目が覚めたらそのまま行こう、と決めた。でもできれば寝たい。体に念じてみる。
無音の室内。なんだか変な気持ちだ。少し解放されたような心持ちになると、部屋が大きく感じる。視野が狭くなっていたのかもしれない。足取りをキッチンへ。ショコラは完成している。『ソレ』をひとつ手に取り、食べてみる。これはジャックの愛。
「しっかりとショコラの味がしてくる。それでいて、噛んでいるとスッと消えてしまう滑らかさ。我ながら上出来だ」
用意したのは二種類。アリーとジャック。アリーのほうはしっかりとした歯応えと、より深みのある味わい。甲乙つけ難い。それぞれ独立しても、単体で商品になりうる。と絶賛したい。
気持ちを抑えきれず、部屋に戻ると電気を消して携帯を手にベッドへダイブする。寝る、と起きるの中間択。電話してみよう。こんな時間だが、起きているだろうというのがなんとなくわかる。
コール数回。予想通り出てくれた。
《は? 何時だと思ってんの?》
不機嫌な声はオード。それも仕方ない。午前四時。普通なら寝ていておかしくない時間に、唐突に電話が来たのならば至極もっともな感情。だが、寝起きという風ではない。
そこにつけ込むジェイド。心の中で「ビンゴ」と喜色になる。
「起きているような気がしてね。それは当たったわけだが、どうだい? 進捗のほうは」
この時間に起きている、というのが吉報なのか悲報なのか。わからないがどちらにしろワクワクする。
忘れたわけではないが、こいつはこういうヤツだった。諦め気味にオードは率直に述べる。
《まぁ、終わった、かな。少なくとも今はこれ以上思いつかない》
どこか晴れ晴れとした口調。諦めにも近いが自信はある。違ったら知らない、そんな割り切った声色で断言した。




