241話
隠していたわけではないが、ユリアーネが言っていなかったこと。伝えずに終わればそれでもよかったのだが、信頼できる人だと認めた上で告白する。
「私は〈ヴァルト〉のオーナーで、アニーさんは店長をやられています。まぁ……わけにはいかない、というわけでもないかもですが……」
言葉が難しい。そういう決まりはないし、実際〈WXY〉で働かせてもらっているわけで。だがとりあえず、店をずっとほったらかしにしておくわけにもいかないのも事実。税金とかあるし。そういえば〈WXY〉のぶんの時給とかはどうしよう。
本日、何度目かのジェイドの沈黙。衝撃がそれなりにくる。同じ年ですでに店を持っていると。そういうこと。
「……そう、なのか。私よりも随分先を走っているわけだ」
自分の店を持つ、というのは憧れのひとつ。ゆくゆくはジェイドもそうではあるが、目の前の頭ひとつ小さな少女が一国の主ということ。どうやってなったんだろう。
思ったよりもあっさりと話が流れていく。あまりまわりに広げていきたい、というわけでもないため、ユリアーネとしては緩い空気感で助かる。
「……あまり驚かれないんですね。まぁ、パリはあまり学生で働く方もいらっしゃらない、ともお聞きしましたので、ジェイドさんも似たようなものではありますが……」
その言葉通り、フランスは学生の労働にあまり寛容ではないほうの国。色々と制限があるため、声を大にして働いている、とは言いづらい。
指摘を受けたジェイド。どんな言葉を返そうか、と悩みつつコーヒーに口をつける。
「……いや、充分驚いているよ。逆に、こっちをクビになったら〈ヴァルト〉で働かせてもらいたいくらいに」
それも面白いかもしれない。彼女達が仕切るお店。色々とショコラを使った新メニューが考えついたら、即OKが出そう。とはいえ、専門店ではないので制限はあるかもしれないが。
「お待ちしています」
微笑みながらラテを飲むユリアーネ。きっと、他の仲間達ともジェイドさんなら、と想像するだけでも楽しい日常を送れるだろうと確信している。




