239話
店では三杯四杯と立て続けに注文が入ることはそれなりにあるが、だいたいは二杯で作る。時間が経ってしまうとそれだけで風味は落ちる上、余ったらジェイドは自分達で飲んでしまえばいいと考えている。
「一七……いや、一八かな。少し濃いかもしれない」
ショコラは甘い。なので豆は多く使っている……とはいえ、そこまでやたらと多いわけではないし、店によってはもっと濃いところもある。平均的だとは思う。
なるほど、と俯きながらユリアーネは舌に神経を集中させる。今、飲んでいるわけではないが、なんとなくこうしたほうが味が想像しやすい。それも美味しいとは思う。が。
「では一六でやってみましょう。それと、あまり細かく挽きすぎないほうがいいかもしれません」
そうと決めたら行動は早い。スケールで測り、グラインダーにかけて豆を挽く。
ショコラはともかくとして、ジェイドはそこまでコーヒーに明るいわけではない。ということもあり、そこまで細かいアドバイスは寝耳に水。
「一グラムでそんなに違うものなのかい? それに粗くしてしまっても?」
一度、ドリッパーにセットしたフィルターの紙を熱湯で濡らす、いわゆるリンスは行う派のユリアーネ。そしてそのままサーバーとカップに順番に湯を移す。こうすることで保温効果が高まり、時間をかけてもコーヒーを楽しめる。そして挽いた豆をフィルターへ。
「もちろん、好みというものは人それぞれですから、お店のほうが好きという方もたくさんいらっしゃると思います。ですが——」
「ですが?」
豆を覗き込むようにしてジェイドは目を凝らす。頭には疑問符が目に見えるくらいにくっきりと浮かんできそう。
少し考えた後、ユリアーネは沸騰寸前の熱湯をまずは四〇グラム投入する。
「……いえ、まずは飲んでいただいてからのほうがよさそうですね」
種明かしは後ほど。じっくりと時間をかけて回しながら注ぎ、スピンさせてからそして四〇秒ほど蒸らす。
余談だが、スピンさせることを『ラオスピン』とも呼び、この技術を広めたコーヒー界の重鎮スコット・ラオ氏の名前が冠されている。こうすることで均一な抽出が可能となる。
そして続いて六〇グラム、七〇グラム、六〇グラムと分けて注ぐ。ハンドドリップではスケールは必須。
回数を増やせばコーヒーは濃く、逆に減らせば薄く仕上がる。時間にして三分ほど。これより時間がかかっても早まってもいいコーヒーは淹れることはできない、とユリアーネは考えている。
「どうぞ。私もいただきます」
均等に二杯。すでに入れている最中からいい香りが漂っていたが、完了となるとより一層場が支配される気がする。




