237話
その形をそっと見守りながらユリアーネは呟く。
「雪の結晶……」
細かく分けると百を超える種類が存在するそれの、分離多重六花状。ちょっと神経を使うくらいに細かい。
それを一分程度でジェイドは完成させる。時間がかかっては冷めてしまう。早く丁寧にやるのがコツ。
「この時期だからね。少し安直かもしれないけど。どうぞ」
五種類くらいならレパートリーにある。今のところ披露する機会はなかったが、好評であれば〈WXY〉でもやってみようか。
受け取ったユリアーネは、その香りからまず楽しむ。たしかにほんのりとスパイシーな感じもする。うっとりと目を瞑る。
「いただきます」
口へ運ぶより先にほんの少しだけ味の想像をしてみるが、はっきりしないので諦めて静かに喉を通すことに。舌先に熱。熱というより、温かさ。
「使っているのはコスタリカ産のカカオだ。フルーティさが気に入ってね。酸味もあって、個人的には一番ソースに合う」
何種類も試した結果。だがそれもジェイドの感性にすぎないわけで。だからこそ面白いわけで。喋ろうと思えばいくらでも喋れる。
もうひと口、ユリアーネは味わう。エスプレッソの苦味。ミルクの甘味。ショコラの酸味、スパイス、野菜、その他たくさん。市販されているものを使って作ったことはあったが、それとは全く感動が違う。
「美味しいです。とても。いつものエスプレッソとはまた違って、本当に美味しい……」
店のメニューに加えよう。決定。頬も緩む。
飲食に携わっているなら、その言葉が何より嬉しい。とはいえジェイドはそこで満足しない。
「クルト・シェーネマンであればもっと合うカカオを見つけ出すかもしれないけどね。色々と試行錯誤中だ、今も」
勝って兜の緒を締めよ、という諺がどこかの国にあるらしいが、こういうことだなと納得。ミルクに関しても、山羊のものであったり水牛であったり。羊も馬も、ラクダの乳なんてのもあるらしい。手に入るかは別として、可能性は無限だし自由。
少々興奮気味にユリアーネは決断。パリに来ている間になにか勉強して役立てたい、持ち帰りたいと思っていたもののひとつが見つかった。
「こちらのレシピ、いただいてもよろしいでしょうか。私もなにか、思いつくかもしれません」
パリでは手に入らないけど、ドイツでなら手に入るものだったり。一度クルトにも見てもらおうと画策。
今日一番の目の輝きに圧倒されつつも、ジェイドは快く了承。
「あ、あぁ。あとでメッセージで送っておくよ。カカオ以外はどこのキッチンにもあるものだから」
誰にでも作れる、というところがポイント。色々な人が色々な味を試せるように。その結果のいいところだけを吸い上げられたらいい。




