236話
その挙動はわかっていたが、あえてジェイドは流していた。させておいてなんだが、もてなすつもりでいたのも事実。
「ラテアート、やってみようと思ってたんだけど……」
先にも伝えた通り、二人が出会ったきっかけ。そこの原点回帰を目論んでいた。キッチンを任されるのであれば、ラテアートはそれなりに研究している。
少し残念そうに俯くユリアーネだが、それもそれでやはり気になる。次はどんなものを作ってくれるのだろうか。
「……そうでしたか。とても素敵なものでしたね。それも楽しみです」
ちょっとだけ欲を出すなら、見たことのないアートを見てみたい。ジェーン・グレイの話が出たから、というわけでもないが、芸術点高めだとなお良し。
笑みを浮かべつつもジェイドは気合を入れ直す。キッチン隅に備え付けられたマシーン。
「まずは普通にエスプレッソ。そして今回はこれを使う」
慣れた手つき。家でも店でもやっているように、挽いた豆をダブルのポルタフィルターで落とす。そこに追加されたのは、褐色の液体の入ったディスペンサー。
「これは……ショコラーデの……ソース?」
普段であれば中身の予想はつかなかったかもしれないが、相手が相手なのでユリアーネもある程度は先読みできる。そうであればそれはつまり。
ポコッ、という音を立てて先端のキャップを開けると、ジェイドは得意げにボトルを見せつける。
「今回のラテアートはミルクで描くのではなく、ソースでミルクの上に描くやつ。見たことあるだろう」
紹介もそこそこにピッチャーにミルクを入れ、スチーミングの体勢。三点で固定すると持ちやすいと動画で学んだ。
スチームの音にかき消されながらも、不審そうにユリアーネはまじまじとボトルを見つめる。
「このソースは……手作りですか?」
そこらの雑貨屋さんで買えそうなもの。ラベルも貼っていないので、どこかのスーパーなどで販売しているものではない、はず。
スチーミングを終えると、ソースを手の甲に少し垂らし、味を確認するジェイド。うん、やはり美味しい。
「ジェイド・カスターニュ特製のショコラソースだ。本来であれば肉料理なんかに使う予定だったんだが、思ったよりもラテに合ってね。甘いだけじゃない、少し塩胡椒やスパイスも効かせてある。より複雑なコクを感じられるように」
他にはニンニクやタマネギなども炒めて、濃厚に仕上げてある。それにしても肉にショコラをかけようと思った人は、なんでそんなことをしたのだろう。天才か。
なにはともあれ、宣言通りにスチームミルクとフォームミルクをエスプレッソに投入。白いキャンバスにソースをゆっくりと垂らしながら、ニードルで絵を描く。




