227話
上手いこと全貌が見えたことで、多少なりとも納得がいったオード。
「さっきよりはわかってきたけど。なーんか引っかかるのよね」
七割くらいは把握した。しかしこうなると全部しっくりこないと気持ち悪い。より追求してみる。
たしかに少し話が行ったり来たりしたことで、わかりづらくなっていたことはビセンテも認めるところ。ならば一度リセットしてシンプルな例。
「紙に一本だけ線が描いてあったらどう思う」
これ以上にないくらいスッキリと。白い紙に一本の線。縦でも横でも斜めでも、それはなんでもいい。
「なにも思わないけど」
ピシャリとオードは言い切る。だがイメージはできた。鉛筆で描いた横線。濃さはHB。
「じゃあ、それをピカソが描いたという事実があったら?」
そこに突然の巨匠の登場。ビセンテが付け足したのは、先ほどから何度か名前が出ていたスペイン人。誰しもが一度は『自分にも描けるのでは』という印象を抱いたことのある画家。
当然のように、オードは詳しくない。めちゃくちゃ作品がたくさんある、程度。
「……一万ユーロくらいになる、かも」
自分には全く響かないが、なんとなくそれくらいはいくのではないか。そんな気がする。
まぁそれはビセンテにも予想通り。だがこれで終わらない。
「さらに、その紙が世界最古のものだったら?」
なんか追加された。オードは辟易しつつも、
「プラスで百万ユーロくらい」
と、だいたい試算してみる。いや、もうちょっといくか? なんせ世界で最も古いのだ。紀元前の話。その五倍くらいはするかも。
「さらにはピカソにとって最後の絵だとしたら?」
思いつく限り値段を釣り上げる。こうなるとビセンテにも、正確な値段がよくわからなくなるが。
「プラス五百万。いや、なんなのこれ?」
なんだかオードもさらに適当になってきた。ものすごい遠回りに歩かされているようで、ゴールというか本質が逆に見えなくなってきている。
それでも口を止めないビセンテ。しかし手も止めずに、ポツポツと入ってくる注文をさばき切りながら。
「ピカソの絵が全て焼かれてしまって、現存する最後の一枚になったら? それが沈没したタイタニック号から出てきたら? 不思議だろう? たった一枚の紙切れに『情報』が足されることによって、価値は株価のように急騰する」
積み重なれば積み重なるだけ。天井知らずで無理矢理に価値は揺れ動く。




