224話
見上げるその、少女の小さな体が、先ほどよりもジェイドには大きく見える。自信と。意識と。思考と。何もかもが自分より高い位置にある。
「さすがクルト・シェーネマンが認めた腕だね。すごい、いや素直に脱帽だ」
やはり今日は来てよかった。小さな一歩かもしれないが、足取りの重さが消えた気がした。
その名前が出たことに驚くアニーは、そのまま話し込む。
「い? クルトさんを知ってるんスか? そうなんスよ。色々考えてる試作段階のうちのひとつっス。他にも——」
「色々とあの人の話を聞きたいところだけどね。ほら」
と、自分の欲求を抑え込んだジェイド。まわりを見渡すと、隣の女性以外にも近場の席の人達がチラチラと様子を窺ってきている。
ようやくその視線に気づいたアニーは、キョトンとした表情に磨きがかかる。
「? なんスか?」
働けってことっスか? 話し込みすぎ?
しかしそうではなく、どちらかというとその視線は料理のほうに注がれている。
「どうやら面白そうなショコラと紅茶、アロマに他のお客さんが反応してるみたいだ。このあと大忙しだね」
たぶん、注文が入るのだろう。メニューにないメニューが。今週は休みでよかった、とジェイドはひと息。もしかしたら伝播していって、SNSなんかでも話題になるかもしれない。店が潤うのは嬉しいけども時給は一緒。
そうこうしているうちにアニーが他のお客に呼ばれる。
「みたい……っスね。ちょっといってくるっス」
案の定、テーブルの上のローズセットを取り上げて会話になっている。
なんとも気まずそうに取り繕うアニーの姿を見ながら、残りをゆっくりと平らげるジェイド。杞憂はある。
「今後、ウチのメニューになったらどうしようかね。アニーさんとクルト・シェーネマンの許可がいりそうだ」
果たしてどちらの店の商品になるのだろうか。仲良くお裾分け? そのへんはオーナー同士で話し合ってほしい。




