223話
もうひと口ショコラを口に運ぶジェイド。そして紅茶。香り。
「……なるほど。ユリアーネから聞いていた話は本当だったんだね。紅茶とお菓子でこんなに」
そしてアイディア。おそらくカフェの料理のために作られたわけではないであろう、フレーバーブラスターなる道具。例えばSNSなどでは、味の感想よりもこういったわかりやすい演出のほうが見栄えもいい。
花の知識も披露したアニーだが、ほとんど無意識で紅茶とお茶菓子を選定する。そこに深い意味はなく、ただ『なんとなく』であり、深い解説を求められても困るほど。
「はいっス。新メニューのことばかり考えてますからね。三〇個くらい思いついたんですが、披露できるのは数個です」
「……一体どんなのが他にあるのかも気になるが、このブラスターは使えるかもしれない。ワンディさんに頼んで購入を検討してもらおうか」
披露できない二〇個以上の危険な思想は置いておいて、店で使えそうなものであればジェイドは惜しげもなく真似る。探せば他にもこう言ったものがあるかもしれない。発案と称して店のお金で試させてもらおうか。
その発言にアニーは思い出したことがある模様。
「あ、ワンディさんはもう注文したらしいっス。カクテルに乗せるのもイギリスでは一般的っスからね。お酒を楽しみたいだけだと思いますけど」
「……だろうね」
言うまでもなかったか、とジェイドも妙に納得。自分でも同じことをしたかもしれない。
このお店にとって有益であればアニーとしても嬉しい。もし違ったとしても、その頃にはベルリンに戻っているので素知らぬ顔をしよう。
「なにはともあれ、これで完成っス。楽しんでいってください。食べ終わったあとのミルクティーも、ほんのりと溶けたショコラーデがうまいことマッチするはずっス。他にもガナッシュやロッシェなどに変えるのも面白いかもっスね」
まだまだ改善点はたくさんあるはず。ショコラーデの種類やカカオの割合。紅茶ももしかしたら中東のものが合うかもしれない。楽しみしかない。
ほんの少し、ショコラの溶けた紅茶はまた違うドリンクとなる。そしてそれはジェイドの知らない味。
「……うん、美味しい。この紅茶、少し甘めだね。だがダークショコラとマッチする。そして華やかなバラの香り。至福の時間だ」
どちらもが主役になる。音楽用語で言うところのオブリガート。なぜショコラにばかり気を取られていたんだろう、と今一度見直す。
点数としては高めだが、アニーはまだまだ満足しない。
「ありがとうございます」
感謝しつつも、そのメニューは今から過去のものとなる。未来に向けて始まる。




