221話
まだ向こうを出てくる時には始まっていなかったのでなんとも言えないユリアーネだが、ほんの少しだけ緊張が生まれる。
「どうでしょうか。私もまだ初めてですから。ですがアニーさんの馴染みようは……」
すでにこの店の常連客とも仲良くなっている模様。自分はどちらかというと引っ込み思案なので、中々溶け込めていない……いや、やっぱりアニーが特別。
それにはジェイドも同意。
「たしかに。どこへいっても通用しそうだ」
是非ともそのまま二人ともこの店で働き続けてほしいくらいには、信頼を置いている。さすが本国で慣れているだけはある。
そして数分後。新しい実験結果を早く知りたい、ということを表情に纏いながらアニーがトレンチを持ってやってくる。その上にはカップとソーサー、そして皿が一枚。
「お待たせしました。ダークショコラのトリュフとルフナ茶葉のミルクティーです。トリュフは店にあったものを使わせてもらったっス」
テーブルに置くときは小指から置いて、音を立てないように。案外基本は守る。
皿の上には、木のマドラーに刺さったショコラが二つ。販売用にも使われているトリュフ。滑らかな口溶けは絶品、ということも知っている。が、ミルクティーとセットで出したことはない。とはいえ、想像してみても合うだろうということもジェイドにはわかる。
「随分とシンプルだね。だがたしかに美味しそうだ。メニューにもない、楽しみだね。このトリュフは……」
なぜ刺さっている? 食べやすいように、という配慮? だが、つまんで食べるのとあまり変わらない気もする。
ニヒヒ、と悪巧むアニーの笑み。
「それは紅茶で溶かしながら食べるものなんです。さっき思いついたんですが、たぶん美味しいはずっス」
脳内では結構上位にくる自信作。帰ったらクルトにも味わってもらう予定。
ジェイドは驚きつつ見上げる。
「さっき? 私を見て思いついたってこと?」
「そうっス。そしてさらに——」
と、どこからともなくアニーは最後の仕上げの器具を取り出す。遊び心を忘れない。
「フレーバーブラスターっス。取り入れてみようと思って、ウチの店長に買ってもらったヤツを持ってきました」
隣に座っている女性も流石にギョッとする。
イギリス発祥の香り付け専用器具、フレーバーブラスター。アロマをシャボン玉のような膜に閉じ込め、割るとその場に香りが弾ける。もちろん口に入っても害はない。拳銃のような形の器具の先端に少量リキッドを付着させ、トリガーを引くと丸く打ち出される。
「そんなものが。貸してもらってもいいかい?」
なにそれ、と興味津々のジェイドは目を輝かせる。銃とか剣とか。なんかそういうのは好き。




