220話
店員を二名、ここに留めておくのも気が引けるが、そそくさとジェイドは挨拶。
「はじめまして、ジェイド・カスターニュだ。アニーさんだね。話には聞いているよ。相手に合った紅茶とお茶菓子を出せるそうだね」
口に出してみるが、やはり信じられないことではある。しかし可愛らしいメニュー。信じる信じないはともかく、一度経験してみたい想いは募る。
この人が、とアニーの顔も綻ぶ。
「どうもっス。はじめまして。そうっスねー、百聞は一見に如かずってことで、やってみましょうか」
許可とかは取っていないけど。たぶん、店長さんは許してくれるはず。そう、勘が呟いている。間違いない、どちらかと言えば喜んでやりそうなタイプだった。
自分で言ったものの、ジェイドに困惑の色が浮かぶ。
「そんな簡単に? いいのかい?」
このほんの数秒で読み取れるようなものなのか? そして今、やって大丈夫? と店内を恐る恐る見回す。販売のほうは忙しそうだが、カフェは若干……余裕はあるかもしれないけど。
そんな不安もどこ吹く風。自信満々なアニーにはメリットもある。
「大丈夫っスよ。ショコラーデと合わせる紅茶、その試作品になりますが、それもジェイドさんには合ってそうな気がします」
クルト・シェーネマンとのコラボメニュー。販売用の紅茶を彼の店に、店内用のショコラーデを〈ヴァルト〉に。そのために様々な案を出している。その中でも絞ったうちのひとつ。
この少女が。あのM.O.Fと。憧れでもある人物に認められるほどの力量、ジェイドとしても気になる。
「それは楽しみだ。ぜひお願いするよ」
そこになにか、自分自身にとってのヒントがあるかもしれない。期待に胸が躍る。
「はいっス。すぐにできますのでお待ちくださいっス」
それだけ残してアニーは急いでキッチンへ向かう。心なしか跳ねるように。ずっと普通に接客をしてきただけだったので、羽を伸ばして自由にやりたいとウズウズしていた。とはいえ、比較的やりたいように動き回っていたが。
その後ろ姿を見送ったジェイドは、頼んだはいいもののやはり店の様子が気になる。
「……しかし、大変な時に頼んでしまったかな。クリスマスマーケットだからね。慣れていない人には酷……とはいえ、ベルリンのほうが忙しいのかもしれないね」
ドイツのクリスマスマーケットは、パリよりもさらに大規模で世界中から集まる観光客は多い。ケルンを筆頭にした三大にベルリンは含まれていないのだが、それでも相当な混雑が予想される。




