217話
一一月半ばからパリではクリスマスマーケットが開催される。ベルリンやローマなど、ヨーロッパの各都市では下旬や一二月に入ってからスタートするものも多い中、パリは少し早めに開始する。移動式の遊園地などが広場にやってくるなど、子供も大人も楽しめる一大イベント。
その人の波をかき分け、白い息を吐きながら街を闊歩する二人。
「で? やっぱりショコラティエールは諦めたわけ?」
いつもならバイトに出掛けているはずの時間にここにいる少女。その人物に向かってオードは問いかけた。
その少女、ジェイドはクリスマスマーケットの高揚する気分に当てられながら、鼻歌混じりの否定する。
「そんなバカな。今は二人助っ人がいるのでね。私は彼女達に出番を譲っているにすぎない。となると、違った視点で物事を見る必要があると思わないかい?」
正しくは、なにも思いつかないので気分転換、というところ。休息によってなにか降りてくるかもしれない。そんな神頼み的な。
こういう口調になる時はだいたいなにも浮かんでいない時、とオードは察した。違った視点。
「いや、思わな——」
——いこともないかもしれない。言われてオードはハッとした。事実、心の奥底でカクテルがザワついている。なにかヒントであると。
その言い淀みにジェイドは足を掛ける。
「そうでもなさそうだね。今回の『アリー スター誕生』は、いいことばかりじゃない、手放しでハッピーエンドとはいかない恋愛映画だ。私も悩んではいる。が——」
「が?」
相変わらず口だけはよくまわるヤツ。このあとに続いてくる言葉がなんとなくわかる。呆れ気味にオードは返答してみる。
その期待に応えるようにジェイドは他人に任せる算段を用意している。
「オードをはじめ、助けてくれる人が今回は多い。加えて、カクテルやコーヒー、紅茶などについても助言をもらっている。私は必要ないんじゃないかとすら」
寝ていたらいつの間にかできていた。そんなことがもしかしたら……?
予想通りすぎた。オードは肩をぶつける。
「あんたが作んないで誰がやるのよ」
さすがにそこまでやってやる義理はない。というかルレ・デセールに入りたいとか言ってなかったっけ?
まぁ、それは置いといて。と、ジェイドは話をすり替えた。
「ところで映画は観た? 終わった時になんとも言えない気持ちになるね」
初めてとは思えないレディー・ガガの演技や歌声もさることながら、ブラッドリー・クーパーの歌唱力も驚きだし、監督としても作品としては初めて。それなのにも関わらず、非常に強い意志を感じ取ることができた。




