214話
「そう? まぁいいか、キミにも期待してるよ。私はね」
なんとなくワンディにはそうは見えないが、知り合いが増えるのはいいこと。細かく考えない。
「……どうも」
もう一度軽く挨拶。あ、たぶん苦手だこの人。
そんなことも気にせずワンディはドカッとイスに座り、遅くなったが駆けつけ一杯。
「それで? 私ももらおうかな。今の私に合うカクテル、なにがあるかね」
流石にそれはビセンテに向けて。本人もカウンターに入り直し、どれにしようかと悩む。
「……そうだねぇ……今、今ねぇ……」
そして視線を飲み干されたプッシー・キャットへ。氷だけがグラスに残る。
それに気づいたオードは眉根を寄せる。
「?」
ショコラを作るために来た二人。特にジェイドは忙しい状況にもすぐに対応してくれてるし。
「オードさん、キミには珍しいものを作ろう。なにかヒントになるようなものがあればいいんだけどね」
ただで帰すのは忍びない。お土産がわりになればいいけども。
ふとジェイドを探すオード。他の客に対応中。ひとり残された感じで少し窮屈。
「……オネガイシマス」
ちゃんと言えたか不安。固かったかも。
後ろの棚からボトルを取り出すビセンテ。ラベルはしっかりとお客に見えるように。自分達も確認しやすいし。
「まず、使うものはウォッカ、グリーンミントリキュール、ホワイトカカオリキュール……っていうとワンディならもうわかるね」
言われてニヤリとワンディは笑う。今の状況。たしかにピッタリ。
「まぁね。そっか、そういうアレだもんね。なるほどなるほど、好きだね」
というかお酒全般好きだけども。『それ』も当然好き。
取り残されるオード。勝手に飲むことになって、勝手に話が進む。
「……よくわかんないけど、大丈夫なの、あたしあまり酒は強くないんだけど」
法律的にオッケーでも飲むことはない。プッシー・キャットをもう一杯、のほうが嬉しいまである。
そわそわしているその姿をほぐしにかかるワンディは、頬杖を突いて完成を待つ。
「安心して。あなたのは全く違う、けど同じ。そんなものだから」
なぜそのカクテルなのか。二つの意味。ひとつずつ分け合うために。
「安心……いや、できないでしょ」
やっぱりジェイドに似ている。この人はしっかりと上司だ、とオードはその受け継いでいるDNAの濃さを嘆いた。
なにやら話が盛り上がっているようでビセンテも嬉しい。険悪にさえならなければいい。
「とりあえずこれらをシェーカーに入れてシェイク。そしてグラスに注いだら終わり」
シェイクも基本を忠実に。慣れてくると自分にやりやすい方法でやる者も出てくる。が、それは自分のためのシェイク。カクテルのためではない。
グラスに満ちる液体は電球の力を借り、さらに透明度を感じさせる。




