211話
その反応にジェイドは好感触。
「それはどうも。でもやはりショコラのことばかり考えてしまう。私はやはりショコラティエールだよ」
「今だけはバーテンダーでいてほしいけどな」
そこに他のお客との対応を終えた、バーコートの男性がオードの右隣の席に背後から忍び寄った。
偉そうに教鞭をとっていたジェイドは、少し恥ずかしそうに声を張る。
「あー、店長」
バーテンダーの心構えを最初に教えてくれた人物。難しいことはなし、ただ『話せ』と。
このバーの店長、ビセンテ・ブルーフは人手不足の解消をなんとか工面できたことを〈WXY〉の店の方角に軽く感謝する。
「ワンディのとこの子だから、少し警戒してたんだが。筋はいいし、こっちでもいけるか?」
向こうの店長はひと言で言えば適当。その血を受け継いでしまっていたら、と危惧していたがいらぬ心配だった。コミュニケーション力と聞く力、そこからの想像力。それだけはワンディと近いところがある。
それも悪くない、そんな理想的な回答をしたいところだが、あくまでジェイドはショコラが一番。だがもしなにかやらかした際の保険はありがたい。
「追い出されたらよろしくお願いしますよ。この子と一緒に」
この子。指定されたオードは辟易とする。
「なんであたしまで。で、ショコラティエールとバーテンダーの違い。店長さんはどう違うって思ってるわけで?」
他の出店は私服で商売を行なっているところも多い中で、キッチリとした爽やかな髪型と雰囲気をしたビセンテ。店としてお金をもらうのであれば、形から入るのと同時に、プロとして明確な線引きを行う性格。
「そうだな。扱ってるものが違う、ってのは置いといて、まず灯りが違う」
人差し指を上に示し、裸電球を指す。とはいえここはバーにしては明るいかもしれない明度。場所が場所なので、殺伐とした空気感は排除。
「どういうこと? そりゃ、しんみりと飲みたい人と、甘いもの買いたい人で目的は違うと思うけど」
本来のバーとは違う、ということはオードにも分かりつつも、全く全容が掴めない。暗いバー。甘いものを欲する人達でごった返すショコラトリー。そりゃ灯りは違うだろう。
あくまで冷静に。頷くビセンテは同調する。
「バーってのは大勢で飲みに来てくれると店は潤うが、ひとりで来るような人も断然多い。そういう人は、だいたいなにかしら辛いことを抱えてたりするものだ。だから灯りは間接照明だったり、暗くしてたりする」
ここは陽気なバー。なので明るめに。多数を占める方に合わせる。




