204話
「はー、それならいいけどね。そうねぇ、苦い恋だった、くらいしか」
なにもかもハッピーエンド。そうはならないのが大人の恋愛なのだろう、面白いとかつまらないとか、そういうものではなくポーレットには勧善懲悪なヒーローものを観るよりかは心に残るものがあった。
非常に簡素な感想ではあるが、ジェイドからすればどんな些細なものでもありがたく受け取りたい。
「どんな苦さ? 詳しく」
できればカカオ何パーセントくらいのなのか。そこまで言ってくれると助かるのだが。どこの農園?
ふとポーレットは作品を思い返す。一緒に階段を上っていくことができないもどかしさ。幸せの絶頂。その他まわりを取り巻く人々と思惑。
「そんなこと言われてもね。自分がスターとして輝くにつれて、ジャックがその影になってしまう、というか。まるで吸い取ったみたいに反比例していくところ、かな?」
「反比例……」
その表現。ジェイドにも非常にしっくりとくる。その対比が明確であればあるほど、感情を揺さぶる。
しかしまさに、深い深層に辿り着こうとするその姿勢と反比例したポーレットの内情。ここに来た理由は映画を観るためでも、感想を伝えるためでもない。
「さて。そんなことより、ショコラ。なにか新作用意してないの? ショコラ、ショコラ」
本命はこっち。そう釣られてここにいるのだから。さっきから口が甘さを求めている。
そういえばそうだね、とゴソゴソと制服のポケットをジェイドは弄る。準備はしていた。
「あるよ。せっかくなら映画を観ながら、のほうがよかったかな」
「?」
映画を観ながら? 少し不安が湧き上がってくるポーレット。いや、普通に食べたいだけなんだけど。
そうして差し出された手の上に、ちょこんとジェイドは袋に包んだお菓子を乗せる。
「はい。ちょっと苦めのショコラポップコーン。映画といえばこれだね」
弾むように明るく。むしろ弾けるように。ポップコーンだけに。
ありがたい。ありがたいけど。受け取ったポーレットの表情は晴れない。
「……なんで今出すかね。この二時間はなんだったの」
言われた通り、どうせなら食べながら観たかった。というか、ポップコーンなんて映画を観る時が一番美味しいのに。
「すまないね。すっかり忘れていた。少し溶けてしまっている気もするが……まぁ、美味しいはずだ」
根拠はないが、どうせショコラは溶けるもの。事前に少しくらい溶けていてもいけるだろう、そうジェイドは自分に言い聞かせる。




