203話
モンフェルナ学園の寮内にはリラクゼーションとして、シアタールームが設置されている。小さな部屋にスクリーンとプロジェクターがある程度。座席も大きめのソファーが置かれているだけ。
だがブリコラージュと呼ばれるフランスの日曜大工は、本職さながらの本格的で、大きさの一六〇インチのスクリーンを設置。音響を透過するタイプのスクリーンを使用する並外れたこだわりを持って作成された。
サラウンドとバックスピーカーは壁に掛けて、トップスピーカーとプロジェクターは宙吊りに。壁には遮音層も作り、防音にも優れたグラスウールを充填することによりさらに一段上のシアターへ。
その薄暗いシアタールームでジェイドはソファーに座りながら、レディー・ガガ扮するアリーが歌う作中歌『アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン』に聴き惚れる。
「……」
映画のラスト。初めてアリーがカメラ目線になる。そこでようやく、アリーというスターが生まれる、という含みが存在する。すでに何度も鑑賞し、その度に切なくなる。アリーとジャック。お互いになにかを得てなにかを失う。それに心打たれる。
「『愛』……だねぇ」
ポツリとこぼす。熱のこもった吐息。そして。
「いや、愛はいいんだけどさ。なんで私も巻き込まれてんの?」
そう愚痴もこぼすのはポーレット・バルドー。卓球仲間であり、ショコラの試食仲間でもある。その彼女が今夜は寮のシアタールームで映画仲間。隣に座っている。
多少の涙目を堪えながらのジェイドは、その真相について告白。
「この映画はひとりで観たいときもあれば、誰かと観たいときもあるんだ。そこにちょうどポーレットがいた。それだけ」
二時間たっぷりと巻き込んで、ベッドシーンあり、バスルームでのイチャつきもありの濃厚な恋愛映画。観る度に新たな発見があって面白い。
深くソファーに沈み込んだポーレットは、脱力しながら映画を脳内で反芻する。
「まぁ、面白いとは思ったけど。でも私に感想とか、なんかそういうアレとか求められても。面白かった、くらいよホント」
つまりは映画については素人、ということ。期待されても困る。芸術作品にはシンプルな感想しかできない。
ふふ、と含み笑いでジェイドは所感を述べる。
「宇宙を探しても見つからないものが、案外自室のベッドの下から見つかったりするものさ。むしろ自由な意見を広く求めているんだよ」
なにかいい例えがありそうだが、思いつかないので自分で考えてみた。探せば似たような格言とかあるかな? そんな余計なことを考える。




