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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
レディー・ガガ
201/317

201話

 先ほどまで考えていたこと。ユリアーネは一旦忘れる。本当なのかわからないから。普通に。いつも通りに。


「おはようござます、アニーさん。たまにはショコラ・ショーでもどうですか?」


 こんなこともあろうかと二杯ぶん作っている。朝はコーヒー派の自分と、一日を通して紅茶派のアニーの。彼女と話していると、やはり後ろめたさやその他マイナスな気持ちも吹き飛んで、自然と笑みが溢れる。


 まだ完全に開ききっていない目のアニー。急にどうしたんだろう、という考えは浮かばずに、舌に甘いものを施した際の味わいが広がる。


「んー……朝から甘いのもいいっスね。いただきます。ところで」


「? なんですか?」


 もうひとつカップを取り出し、注ぐユリアーネ。少しとろみのあるショコラショー。甘い香りが広がる。


 そのショコラ・ショーとは違う香り。アニーはひと息嗅ぐ。


「なにか恥ずかしさのような。隠しておきたい気持ちのような。なんかそんな感じの香りがするっス」


 彼女は嗅覚がいい。太古の人々からは退化してきている、という研究結果のある『嗅覚』。この少女にはそれが当てはまらない。それこそ細かな感情が読めてしまうほどに鋭敏化している。そして嗅ぎ分けたのは、なにかの隠し事。


 しかしその感覚こそが、働くカフェでは武器となっている。とはいえもちろん、常に無意識に嗅いで識別しているため、こういった時にも感じとってしまう。


 隠しごとはできない、とユリアーネもわかっている。だから全てオープンに。それでも続く友情。崩れることなど。想像できない。


「隠したいこと。ありますよ。私もそういう年齢ですから」


 少し揶揄う。こういう風に小悪魔的にあしらうと、


「……なッ! あのヒゲっスか!? あの見た目も目つきも犯罪者の店長に……!」


 と、眠気を一気に覚ましたアニーは、自身の働くベルリンのカフェの年長者を疑う。全くそんなこととは無縁なのだが、彼女にとってはそう見えているらしい。『ヒゲ独身』と呼んでいたが、最近ヒゲを剃ってしまったためただの独身に。


 変わらない日常。場所は変わっても人は変わらない。ユリアーネはもうひと口、ショコラ・ショー。内側から物理的にも精神的にも温まる。


「さらに、ここにエスプレッソを混ぜ合わせて、さらにフォームドミルクを注げば、ホットショコララテにもなりますね」


「アールグレイを混ぜるだけでも、ショコラフレーバーティーになりますから。こちらもオススメっス!」


 先ほどまでの眠そうな顔も消えさり、紅茶のことを語るとなると輝きだすアニー。それ以外にもホワイト・ダーク・ミルク、それらのショコラでまた合う茶葉が変わる。そうなるともう妄想は止まらない。

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